富山県警の捜査は遅々として進まなかった。首は、鋭利な刃物のようなものできれいに切断されていたが、凶器は発見されていない。被害者の足跡しか残っていない、という「雪上の密室」の謎も解明されなかったし、現場に残された意味不明の紙からも、何の手がかりも得られなかった。
県警の捜査員が途方に暮れていたとき、ふらりと一人の男があらわれた。長髪で痩身の男だ。
男は、自分ならこの謎が解ける、と言った。
「本当ですか? 一体、この事件の謎は‥‥」
「なに、簡単なことです。富山の冬は寒い。その寒い中を、この女性は歩いていたのです。手に一枚の紙を持って。この寒さだから、当然紙は凍ってしまいます。凍った紙は、鋭利な刃物‥‥すなわち、凶器になる」
「‥‥」
「そしてこの女性は、雪に足を取られて転んだ。手に持った紙は雪上に落ちた。女性は、この「凶器」の上に倒れ込んでしまったのです。ちょうど、首が切断されるような角度で」
「つまり、事故死ということですか! しかし、いくら凍っていたとしても、紙一枚で人間の首が切れますか?」
「切れます。なにしろ、バナナで釘が打てるくらいですから」
「なるほど。しかし、こんな死に方をするとは、不運な人ですね」
「不運? ‥‥そうでしょうか。私には、「天罰」のようにも思えるのですが」
その男は不敵な笑みを浮かべると、いずこへともなく去っていった。