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浅野川はその日、いつものように研究室でコーヒーを飲んでいた。
「瓢の中に鍵があるんです。その鍵はこの匣を開ける鍵なんですが、鍵は瓢の口よりも大きくて取り出せないんです」
萎絵は研究室に入ってくるなり、そう言った。
「ふむ、その瓢はどこにあるんだい。きっとお湯を入れて中の鍵を溶かすのだよ」
浅野川は萎絵が何かたくらんでいることは解ったが、それは何かはまったく見当がつかなかった。
「だめなんです。瓢は氷で出来ていて、低温研究所で冷凍されているんです」
「それなら瓢など何回も再生できる」
頭は萎絵の企みを悟ろうとフル回転しているが、答えは出ない。
「あの瓢はもう二度と作れないほど素敵なんです。壊すなんてとんでもないです」
「……わかった。内と外の関係にとらわれていたからいけなかったんだ」
そう答えてから、失敗したかなと思った。
「どういうことですか」
案の定、萎絵は微笑んだ。いけない、話が何かまずい方向にいっているに違いない。そう思いながらも、浅野川は答えてしまっていた。
「匣を瓢の中に入れればよい」
「入れるのは良いとして、どうやって開けるんです」
萎絵が、我が意を得たりと嬉しそうな声で詰め寄った。使っていない森作品は「すべてがFになる」……浅野川は自分が罠にかかったことを悟った。
「中へ子供を産むのだ」