festival
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 京都。
 崩壊したJDC本部ビル跡地には、プレハブの仮設住宅が建っていた。
 その狭い部屋の中では、JDCの精鋭たちが膝詰めで集まっている。誰も喋らない。何かを待っているかのように。

 薄い合板の扉が開き、一人の男が部屋に入ってきた。八十八十八である。相変わらず黒のサングラスをかけていた。あまりにも不細工なため、道ですれ違う人が失神しないように警察からサングラス着用を要請された、というのがもっぱらの噂である。
 龍宮亀之介が、なるべく十八の顔を見ないように目をそむけながら言った。
「やあ、八十八氏。謎は解けたかい?」
 十八が答える。
「謎なんかありませんよ。あるのは、論理的な解決のみです」
「さすが、すごい自信だな。聞かせてくれないか? 八十八氏の推理を」
「ええ。過去の事件では、『奥の細道』『源氏物語』などの古典が大きな鍵になっていました。今回も同じでしょう」
「ああ。龍宮もそう考えて、宮本武蔵の『五輪の書』をチェックしてみたのだが……」
「犯罪オリンピックならそれが鍵になったかもしれませんが、今回は犯罪ワールドカップですから。それは違います」
「すると……」
「江戸時代に成立した川柳集『万句合』です。選者がテーマを決めて江戸の庶民から投稿された川柳を集めたものです。有名なのは柄井川柳が選者の物ですが、他の選者による物も沢山ありました。集まった川柳の総数は、十億とも二十億とも言われています。いまだにすべてを読み切った人はいない、とか」
「それが……」
「そう。犯罪ワールドカップの殺人は、すべて、これらの川柳一句一句の見立て殺人になっているのです」
「なんと……」
「そして、犯人の名前もこの川柳集の中に含まれています。十億句の川柳を並び替えれば、犯人の名前がアナグラムとして浮かび上がってくる……。というわけなので、あとはまかせました、龍宮さん」
「お、おい、八十八氏!」
「こういうことは『とんちの龍宮』の仕事でしょう。資料は外のトラックに積んであります。では」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 八十八氏、いったいどうやってこの謎を解いたのだ?」
「それは……」
 十八はサングラスをはずすと微笑んだ。
「作者に聞いてみてください」
 しかし、その言葉を聞いている者はいなかった。十八の素顔を見たくない探偵たちは、先を争って部屋から逃げ出していたからだ。




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