「おわっ」
浅野川は思わずマウスを右クリックし、BACKした。
「い、今のは何なんだい?」
「さぁ……たまたまみつけたんですよね。何かあるのかしら……」
「いや、何もないんだろう?」
そう言って浅野川はマウスを動かす。萎絵が横からのぞき込んだ。
「先生の指ってきれいですね……」
「ぶっ」
「きったなぁい……。先生、コーヒー吹き出すの、これで何度目ですかぁ?」
「東之園君が真面目な顔して変な事を言うからだろう。まったく……」
萎絵は洗面台からふきんをもってきてディスプレイを拭いた。ついでに浅野川の顔も拭いてやる。
「ちょ、ちょっと、東之園君、それは今机を拭いたばっかりのふきんじゃ……」
「先生って結構、細かいことを気にするんですね」
私は気にしませんよ、と萎絵がつぶやいた。
(そりゃあ君の顔じゃないからね……)
理不尽なものを感じながら、浅野川はコーヒーカップを置き、ディスプレイに向かう。
(ああ、コーヒーくさい)
と、浅野川のマウスを操る手が止まった。
「?どうしたんですか?先生」
「簡単じゃないか、東之園君。君に解らないとは思えないけどね」
「え?え?何何。何ですか?」
「ソースを見てごらん。……って調味料じゃないよ、東之園君。僕にかけるんじゃないーーーッ!!」
(ああ、ソースくさい……)
浅野川が座っている所から1メートルほど離れて、萎絵がうなだれて立っていた。
「だって、先生……」
「ああ、もういいよ。怒ってないから、こっちにおいで」
「先生、ソースくさい……」
誰のせいだ誰の、という言葉を飲み込み、額に浮かんだ怒りマークを隠してにっこりと笑って言う。
「そのページのソースをみれば、すぐに解るよ」
「え?え?」
萎絵はソースくさいのを我慢して、ディスプレイをのぞき込む。そして、それを見たとたん、晴れやかな顔になった。
「すべてがFなんですね」