まどろむ消去

GAKU

「よし、これで完成だ」
 モリヒロ氏は満足げにつぶやいた。

 モリヒロ氏といってもどこかの大名の子孫でもないし、ましてどこかの国の総理でもない。
 ただ、本名・住所・年齢・性別などすべてが明かされていない謎の人物であった。
 そんなモリヒロ氏は本職の他にもいくつかの顔を持ち、その一つとしていままで何冊かの本を書いてきた。彼の書く本はベストセラーまではいかないが、その卓越した創造力に裏付けられた本はその道の専門家たちには驚愕と賞賛をもって迎えられていた、と周りの人間たちは思っていたのである。

 そんな彼が今回の作品の完成には手間取った。書きたい題材は既に決まっていた。
 もともと自分が書きたくないものは決して書かない主義である。そして今回はどうしても作らなくてはいけなかったのだ。そう、彼の信念のためには。

 初めは賞賛をもって迎えられた彼の本であったが、売れることによって人の目につけばつくほど、どうしても違った意見も出てくる。そして彼の嫌いな奴らが無邪気にも近寄ってきたのである。はじめは戸惑いながらもなんとか受け入れようと努めてきた。しかし、元々好きではない奴らは日を追うごとに増え、彼の味方は一向に増えなかった。もしかしたら増えていたのかも知れないが、とにかく不快な奴らが増え過ぎたのである。

 そしてついにそれは完成した。これで奴らを黙らせる事ができる。いや、もう自分に近づくことさえできないだろう。これでまた、仲間たちと好きな事に集中できるのだ。
 後はその結果を待つだけである。

「よし、これで完成だ」
 モリヒロ氏は満足げにつぶやいた。
「これが本になるのは先の事として試運転も成功したし、あとはタイトルをつけなければ」
 モリヒロ氏はしばらく黙り込んだ後でおもむろにタイトルを打ち出した。
 タイトルは『まどろむ消去』。
 そう、彼の書き上げた作品は、自分のHPにウインドウズユーザーを一切立ち入らせない、マックユーザーのためのプログラムである。


 作者はウインドウズ派です。この作品はフィクションであり、上記のプログラムは存在していません(したら困るって……) なお、モリヒロ氏と林狭嗣氏が同一人物であるかは現時点では一切不明です。

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