Thirty Little Jamaicans
まるは
「懲りずにまたか・・・」
県立T大工学部研究棟の薄暗い階段で、大学院生の里芋フカシは呆れたようにつぶやいた。彼の目の前の壁には、一枚のポスターが。
ミステリィツアー
初秋の夕方の夢
素敵な謎へのいざない
「この間、怒られたところだってのに・・・はっ!」
フカシは気配を感じて振り返ったが、時すでに遅し、満面の笑みを浮かべた港埜ヨーコが、彼のシャツの裾をしっかり握りしめて立っていた。
という具合に、というか、とにかく7月のツアーと殆ど同じ様に話はすすんだ。違った点は、死体役のメンバーが、半裸で黒人のメイクをしていたことと、屋上には今回は焚き火の用意はなかったこと、開始時刻が早くなっていたこと(焚き火ができないので日が暮れきるまでに行うためであろう)だけであった。
(その他の細かい設定は、オリジナルを参照して下さい(^^;))
場面はかわって・・・ここは高層マンション、「シャンピニオン家門」の屋上である。どこからともなく、微かに音楽が聞こえてきた。レゲエのリズムである。
「こんどはレゲエでも踊ってるっていうの?」
またフカシと離ればなれになったヨーコは、ごきげん斜めである。
さらに腹の立つことに、今回のツアーには、東之園萎絵がこともあろうに浅野川助教授とペアで参加している。発案者が参加して良いのかと苦情を言っては見たが、進行をチェックするためだと平然としていた。
見ると夕闇を通して見える記念館の傍点、いや望天広場で、30人ばかりの半裸の黒人が、前回同様に輪になって踊っている。
レゲエのリズムには全く乗っていない、ふらふらした幽霊のようなダンスである。
「リズム感って言葉、知らないのね、きっと」
ヨーコはつぶやいた。
記念館にもどった参加者たちは、例によって30人の黒人が消えている事を確認した。もうすっかり暗くなり、各研究室には灯が点されている。
「どう?浅野川先生、こんどは焚き火なしでやったわよ」
と萎絵は自慢げに聞いたが、当の浅野川は心配そうにあたりを見回していた。
「先生!人の話を聞いてるんですか?」
「えっ、ああごめん。まさか真っ青な顔で病人のダンスってわけにも行かないだろうからね・・・いや僕の心配してるのはそんなことぢゃなく・・」
浅野川がそこまで言ったとき、ふいに周囲の照明が一斉に消えた。
「停電かしら?」
「あぁ、いわんこっちゃない・・」
「先生まだなにもおっしゃってませんよっ」
あとで判ったことだが、この日の停電で、実験中断やコンピュータの停止、冷蔵庫の停止などによる大学の損害は数億円にのぼり、データがフイになったために精神に異常を来した研究者の数は三桁に達したと言う。非常発電装置は冷却水ポンプが止まり、ラジエータが渇水して動かなかったのだ。
その日の夜遅く、萎絵はミス研のメンバー達と一緒に浅野川助教授の部屋にいた。
「先生、さっきなにわけの解らないことおっしゃっていたんですか?病人のダンスとか、いわんこっちゃない、とか?」
と、萎絵が訊ねた。
「ビニールの、いやポリエチレンかな、ゴミ袋を使ったんだろ、あの黒い奴。青いのは、いくら病人にしても青すぎるからね・・。これだと前の発泡スチロールみたいに燃やさなくていいからね。うまく作ったもんだ、接着剤はなにかな?」
「先生!」
萎絵の顔はゴミ袋のように真っ青だった。
「まぁとにかく風船人形を作って彩色し、軽い気体、ヘリウムかなにかで膨らませたんだね。踊りがふらふらしてたのは、軽すぎるせいだね。ガメラみたいなもんだ。でもその後がいけなかったね。風船みたいにとばしたんだろ?暗くなってたし、黒いからうまい具合に誰も気がつかなかった。そこまでは順調だったけど、流された風船は大学の変電設備の電線にひっかかった。で、あの停電というわけ」
「先生!」
こんどは萎絵の顔は真っ赤になっている。
「ああ、心配しなくていいよ、このことは誰にもしゃべらないからね。ぢゃ、お先に!。ああ、鍵はかけなくていいから、電気だけ消しといてね」
浅野川はそう言うとさっさと出ていった。
「あれが、浅野川先生か・・・凄い想像力だなぁ・・最初のほうは良かったけれど。」
メンバーの一人が首を傾げながら言った。
「人形は空気で膨らませて、可動部は軽い針金でつなぎ、終わったら空気を抜いて適当に破ってポケットに入れ、針金は身体に巻き付けたっていうだけなのに・・」
別のメンバーが心配そうに言った。
「それより停電の原因は、変電所の前の坂道に違法駐車していた浅野川先生のいすずフローリアンが、サイドブレーキを忘れたために変電所に突っ込んだためってこと、まだ知らないみたいだね・・」
萎絵は諦めたような口調でつぶやいた
「結局、最後の詰めが甘い人なのよ・・・何につけても・・・」
萎絵は去年のクリスマスの事を思い出していた。
この作品は(以下略)
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