「...と、いうわけで、今回の補導対象者は、テレポーター。」
「あ、通話料金が格安になるという...」
「それはテレホーダイ。」
頬に両手をあてて、うふっ、とかわいく舌を出す、必殺ポーズで誤魔化す次子。
「紙麻君、テレポーティション能力の欠点は、知ってるね。」
「はい、自分の体以外のものは運べない、つまり瞬間移動した先で、素っ裸になってしまう、と言うことですね。」
「その通り。しかも、記録から推測すると、今回のターゲットは、連続して“ジャンプ”することは出来ないようだ。最低6時間以上の間隔を空ける必要があるらしい。」
「なぜでしょう?」
「多分、二日酔いになるのが嫌なんだろう。」
「は?」
「いや、忘れてくれたまえ。何かと欠点は多いが、その能力ゆえ、“補導”には困難が予想される。健闘を祈る。」
「ラジャーしました。」
「その日本語はおかしい。」
「あなたが、瞬間移動能力者ね!」
「むむっ、何故それを知っている?」
前回の反省を踏まえて、今回は単刀直入に容疑者の部屋に乗り込んだ。
「おとなしくお縄につきなさい!」
「へっ、捕まってたまるか。」
次の瞬間、男の姿が消滅する。後には、男の着ていた服が残るのみ。
「しまったわ。これから先のことは考えていませんでしたわ。どうしましょう?」
全く何も考えていなかった事を、思いっきり控えめな表現で反省し、次子は必死に考えた。要は、あの男の行き先が分かれば良いのだ。後6時間はテレポートできないはずだから、それまでに居所が分かれば、補導するのは容易な筈である。まして、相手は素っ裸である。
「はだか、裸..そうですわ!」
男の着ていた服を投げ捨てると、次子は部屋を飛び出した。
「ちょっと、お客さん、困ります!」
従業員の制止の声を振り切り、奥に進むと、次子は目指す場所の扉をひらいた。
「さあ、もう逃がしませんわ!」
目の前には慌てふためくテレポーターが。
「ど、どうしてこの場所が解った?」
腰に手を当て、仁王立ちになると、次子はゆっくりと言った。
「簡単な推理ですわ。テレポートした後は、裸になってしまう。と、なれば行き先は裸でいても不審に思われない場所、すなわち、ここお風呂屋さんよ!」
「ま、参りました...」
がっくりとうな垂れるテレポーター。次の瞬間、次子は自分が男湯で、全裸の男たちに囲まれていることに気が付いた。
「いぃやぁぁああーーー!!」
次子の絶叫が銭湯に響き渡る。
その後、泣きながら電話を掛けてきた次子に呼び出された祖師名の手によって、無事、男は補導された。
...まけるな、紙麻次子。
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