大阪おふみ密室殺人事件・解決編

竹田寿之

 ちょっと経ってから、ぼくの部屋の電話の呼び出し音が鳴った。阿東嬢からだった。
「うーん。ちょっと考えてみたんだけど、全然わかんない。でも、竹田さんには犯人はわかっているんでしょ」
「うん、主犯、と呼んでいいのかちょっとわからないんだけれど、実はその人はその場にはいなかったんだ。結果的にまきこまれて共犯になってしまった人はその場にいたけど」
「え?」
「ぼくの推理では、紅蘭さんが主犯なんだよね。でも、本当のところ、紅蘭さんに全く殺意はなかったと思うよ。で、結果的に共犯になってしまったのがまるはさん」
「でも、紅蘭さんはそのとき長崎にいたんでしょ」
「これまで出てきた話からでは、それを証明することはできないよね。電話はどこからでもかけられるから。まぁ、多分長崎にいたんだろうなとは思うけれど。でも、この事件に関しては、実はその場にいなくても、ぼくの考えている"犯行"は可能なんだ。だからどこにいようと、距離は全く関係ない」
「どういうこと?」
「数日前に東京おふみに電話乱入した紅蘭さんは、なのさんの性別トリックにむちゃくちゃに驚いていたんだよね。だから、なんとかなのさんをびっくりさせてお返しをしたいと考えていたんだろうと思うんだ」
「うんうん」
「それで、なのさんをびっくりさせるために、事前にまるはさんに電話をして、あるものを用意してもらったんだよ」
「あるものって?」
「まるはさんのパワーブックで表示できる電子版の百科事典。CD-ROMで出ているやつを持っていってもらったんだ」
「どういうこと?」
「その前に、なのさんはここのところ連日深夜から早朝にかけて森先生の会議室にアクセスしていたから、結構疲労がたまっていたんだと思うよ。その日も徹夜で朝まで会議室にアクセスして、ほとんど寝ないまんまで新幹線に飛び乗って大阪おふみに駆けつけたわけだよね」
「うん」
「紅蘭さんから電話がかかってきて、なのさんとお話ししているときに、なのさんは紅蘭さんから、お隣に座っていたまるはさんのノートパソコンに入っていた百科事典の記述を見るように言われたわけ」
「それで?」
「紅蘭さんは東京おふみの電話乱入のときに、『まるはさんから"グランド酋長"の称号をなのさんが奪った』ということを聞いていたから、『なのさんの年齢は実は結構いっているな』と考えたと思うんだ。だから、百科事典の"青年"とか"中年"の記述が載っている箇所を見せたら、『きっとなのさんはびっくりするだろうな』と思っていたんだろうね」
「うんうん、それで?」
「ところが、なのさんは寝不足な上、移動疲れもしていたわけ。疲労の極みにあって、紅蘭さんのかわいい声に、『なのちゃん、めろめろでちゅ』な状態で、ただでさえ血圧があがっていたところへ、電子版百科事典のあまりといえばあんまりな記述にびっくりして、ぷっつん。というわけ」
「なーるほどね」
「だから、ある意味ではものすごく間が悪くて、不幸な"事故"だったとも言えるんだよね。だから、今さらこの件を暴いてどうこうしようとは思わないよ」
「ふーん、それが今回の事件の密室トリックだったというわけね」
「うん、でも、犀川先生の定義では、ある意味ではあのカラオケボックスは密室ではないんだけどね」
「え、どういうこと?」
「ヒントは"詩的私的ジャック"のカバーに引用された文なんだけど」
「え、ちょっと待って」
 電話口の向こうでごそごそと何かを引っぱりだす音がする。
「今、もう一度読んでみたんだけど、よくわからない」
「うーん、わかんないかな。つまり、あのカラオケボックスは"人間大の物質に関する密室"ではあったんだけれども、"電磁波に対する密室"ではなかった。というわけ。だから携帯電話での通話ができたんだよね」
「そうかぁ。でも、どうしてその場にいた人はこれに気づかなかったの。聞いてみると簡単な話だから誰かが気付いてもよさそうじゃない」
「うーん。まるはさんは気付いていたと思うよ。そのほかの人達はきっと、いたずらでドアに張った"密室"の張り紙のせいで、『本当に密室なんだな』とミスリードされちゃって、難しく考えすぎちゃったのかもしれない。最終的には、単になのさんの体調が悪くて、その場で倒れてお亡くなりになった。ということになっちゃたしね。それに、はた目から見ると結構簡単なことでも、その場にいたら、気が動転しちゃって、かえっていろんなことが見えてこないものみたい。だから、"あの張り紙に気づいていた人が実は一番引っかかった人"で、これがほんとの…」
「あっ、何を言いたいのかわかったから全部は言わないで」
 あ、今度は気付いたか。とぼくは思った。
「"紙の最大のトリック"だと言いたいんでしょ。」
(彼女もなんだかだんだんぼくに似てきたみたいだ)と苦笑しながら、ぼくは受話器を置いた。

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 この物語はフィクションであり、現実に存在するハンドルネームの方がいらしてもその方とはいっさい無関係です。この点についての抗議はいっさい受け付けません(笑)。
 でも、登場人物としてお名前を借りた方々、失礼な記述が多々あったと思います。平にご容赦。特に、犯人役と被害者役としてお名前をお借りした皆様。お許しを。

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 なお、大阪おふみの状況を想像するのに、参加者の皆様の「おふみレポート」を参考にさせていただきました。ありがとうございました。
(うりうりさんの海鮮話、個人的には入れたかったんですけど、二次会での出来事らしいし、できるだけ状況は本当にあったことに近づけたかったので、結局入れないことにしました)
 それから、これは実はここだけの話にしておいてほしいのですが、この事件があったために、東京おふみ及び大阪おふみに参加したなのさんと、今会議室に書き込みをしているなのさんは別人になってしまったんだそうです。つまり、いまだになのさんは性別も年齢も『不定だ』(笑)そうです。
(と本人がおっしゃっておられました)


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