紅蘭るいのミステリィな日常(SF編)

竹田寿之

 紅蘭るいは混乱していた。
「なぜこんなものが・・」
 発端は先月開かれたオフミだった。彼女の家に台風のごとくやってきた森博嗣ファンの仲間たちはおよそ一年先に出る彼の近作の舞台となったテーマパークを眺めるという当初の目的を達すると、台風が去るようにそれぞれの生活の場へと戻っていった。・・台風と同様、いくつかの置き土産を残して。

 最初に目に付いたいくつかの品物は、落とし主がはっきりしていた。メガネや歯ブラシ、システム手帳などといった品物だったからである。まぁ、だれかさんの(もともとどこかでなくしていたという噂もある)羞恥心やら、他のだれかさんの真心などといった、形のないものも、そこかしこに転がってはいたのだが。
 しかし、不思議なことはそれから起こりはじめた。

 誰の物だか分らない靴下や、お菓子の空き袋、長崎にはないはずのスーパーや聞いたこともない書店のレシートなどが掃除をするたびに次から次へと現れはじめたのである。
「この間掃除をしたときには、こんな物はなかったはずなのに、なぜかしら」
 不思議に思った彼女は、そのことを彼女の家にやってきた仲間が見ているであろうインターネットの掲示板に書き込んだ。

 早速翌日、反応があった。しかし、その内容は彼女をさらに困惑させる物でしかなかった。
『すみません、人形焼きと古本をお渡ししたときに、一緒にハンカチのようなものを間違ってお渡ししていませんでしたか?』というメールが届いていたのである。
「そんなもの、あったかしら?それに、この人は家には来てはいないはずなのになぁ」

 うちの中をもう一度探してみると、半月形をした白いハンカチのような品物が、部屋の隅に落ちていた。
「なぜ、これまで気がつかなかったのかしら?でも、まぁ、これまでの落とし物のついでだわ」
 彼女はつぶやくと、ていねいに洗濯をして、アイロンをかけ、便箋に入れて彼の住所に送り返した。

 数日後、メールが届いた。
『確かにこれは私の物です、わざわざ洗濯までしてお届けくださり、どうもありがとうございました。どうやらお部屋で裏返しになってどこかに張りついていたものらしく、そのためにご迷惑をおかけしてしまったようです』
 メールを読み終えると彼女は、しばらく考え込んでいたが、ふっとある可能性に思い当たると、驚いたように目を見張った。
「裏返し・・・?まさか、そんな。あれが裏返しになった”四次元ポケット”だったなんてことが」
 彼女はこれまで出てきた品物をしまっていたたんすの引き出しを開けたが、しまってあったはずの品物は、なぜか影も形もなかった。
「あまりにもエキセントリックな人達にあてられて、幻覚を見たのかしら?それとも・・。」

はたして、あのメールは、彼独特のジョークだったのだろうか?それとも・・?紅蘭るいはいまだに混乱し続けている。


(この物語はフィクションであり以下略)
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