第90回   動物園でナンパ 1996.12.23


 今日は休日だったので、動物園に行って来た。目的は何かというと、ナンパである。
 もちろん、一人で行ったのではない。私は、一人でナンパなどできる男ではないのだ。友人の時岡と一緒である。時岡は、こういうことが得意なのである。
 実を言うと、天気予報では今日は雨だったのだ。だから、こいつぁ降るから延期がいいわい、と思ったのだが、さいわい予報ははずれた。私と時岡は、天王寺動物園へ向かった。

 開園後すぐに動物園に入る。朝が早いためか、まだ人は少ない。私たちはぶらつくことにした。

 まず見に行った檻には、イリオモテヤマネコがいた。とりあえず、私はあいさつをした。猫にこんばんわ。‥‥朝だから、おはようの方がよかったか。
 次の檻にはグレビーシマウマがいた。私はかねがね疑問に思っていたのだが、シマウマは耳にもシマがあるのだろうか。ちょうどいい、その疑問をいま晴らそう。私はじっと耳を見た。馬の耳を見物、である。‥‥なるほど、シマがある。これで長年の疑問は氷解した。
 さらに歩いていくと、こんな立て札があった。
『かわいいアヒルの赤ちゃんが生まれました! ぜひごらんになってください』
 なるほど、見に来いアヒルの子、ということか。これは是非、見に行かねば。

 時岡が言った。
「おい、いいかげんにしろ。本来の目的を忘れてないか?」
 そうだった。つい、動物を見るのに夢中になってしまった。今日はナンパに来たのである。
 けっこう人も増えてきたようだ。私は、動物を見ずに女の子を見ることにした。
 うろついているうちに、時岡が二人連れの女の子を見つけたようである。さっそくナンパの開始だ。かわいい子には声をかけろ。

 しばらく話すうちに、私たちは意気投合し、一緒に見物をしよう、ということになった。
 女の子たちは、髪の長い方が聖子、ショートカットの方が尚子といった。時岡は聖子の方が気に入ったようで、しきりに話しかけている。聖子を口説く、というやつだ。
 そんなわけで、私は自然と尚子の方と話をしていた。私と尚子、時岡と聖子は少し離れて歩いていた。

 ‥‥とまあ、ここまでは順調だったのだが、結局ナンパは失敗してしまったのである。すべては時岡が悪いのだ。なぜ失敗したかというと、こういうわけだ。

 歩いていると、突然、後ろから叫び声がした。振り返ってみると、聖子が時岡に向かって怒っている。どうやら、時岡が何かしたらしい。
 怒る聖子から事情を聞くと、時岡が胸をさわったようである。さわっただけならまだしも、揉んでしまったようだ。ちょいとおっぱいのつもりで揉んで、ということか。いや、おチチこちょこちょ揉んでみ〜、の方がいいかな。
 深刻な状況下にあって、このようなくだらないことを考えていると、聖子が時岡を突き飛ばした。よろめいた時岡は、柵を越えてサル山の中へ落ちていった。
 大変だ。私はあわてて柵に駆け寄り、下を見た。どうやら怪我はないようである。ひと安心だ。‥‥しかし、時岡の後ろからオランウータンが近寄ってきた。
 危ない。私がそう言う前に、オランウータンは時岡にキックをした。時岡はダウンしてしまった。すなわち、時岡蹴る猩猩、である。


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