第206回 雇用機会均等法を考える 1998.9.6
大体において法律の名前というものは必要以上に長ったらしいものが多いようで、たとえば通常は「雇用機会均等法」と呼ばれている法律、これの正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」という。この法律は来年の四月から改正施行される予定で、名称も「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」と変更されるのだ。
で、どこがどう改正されるのかというと、法律の名称から「女子労働者の福祉の増進」が削除されたからもう福祉の増進をやめよう、ということではなくて、まあ早い話が、今まで事業主の努力義務となっていた募集・採用・配置・昇進について、女性に対する差別が禁止され、これまで認められていた「女性のみの募集、女性のみの配置」ができなくなるのだ。今までも「男性のみの募集」は原則として禁止だったが「女性のみの募集」は認められていた。これができなくなるということは、すなわち、「男子社員募集」「女子社員募集」と言ってはならず、「男女社員募集」と言わなければならない、ということだ。なんだかややこしい話だが、なに、説明している私だって大して理解していないのだ。安心してほしい。
しかし、安心できない人たちもいるようで、たとえば映画のオーディションの通知などはこう書かなければならなくなる。
来春公開予定のキムタク主演の純愛トレンディー映画『愛のバックドロップ』は、十月からクランクインします。つきましては、この映画でキムタクの恋人役を演じる新人を募集します。男女不問。
この通知を読んで、キムタクの恋人役を演じたい男性たちが続々と応募してきたらどうするつもりなのか。あまつさえ、その男性が北島マヤに匹敵するほどの才能の持ち主で、最高得点で合格してしまったら……まあ、それはそれで一部の人たちにとっては興味深い映画になるかもしれないが、あまり一般受けはしないだろう。
そんなことがあるわけない、などと言ってはいけない。男性が女性役を、あるいは女性が男性役を演じた例など、過去にいくらでもある。たとえば『いじわるばあさん』で主役のいじわるばあさんを演じていたのは青島幸男だし、吉本新喜劇で「ごめんください。どなたですか。となりに住んでいる桑原和子が回覧板を持ってきました。お入りください。ありがとう」と言っているおばさんの役を演じているのは桑原和男である。この桑原和男など、男性の役を演じているところを見たことがないくらいだ。逆の例では、『西遊記』で三蔵法師の役を演じるのは女性だと昔から相場が決まっている。さらに……いや、いちいちこんな例をあげずとも、歌舞伎役者は全員男性だし宝塚歌劇は全員女性だ。男性が女性役を、女性が男性役を演じるなど日常茶飯事である。
いま思いついたのだが、いや、本当はラストまでちゃんとした構成を立てた上で書いているのでいま思いついたふりをしているだけなのだが、歌舞伎の女形と宝塚歌劇の男役の恋などというものはけっこう混乱を誘うのではあるまいか。あまつさえ、その二人が抱き合って神社の石段を転がり落ちたりするとさらに混乱に拍車がかかるだろう。
生物学上の男女と役柄としての男女と精神の男女とジェンダーとしての男女とが違うとなると……いや、全部違うってことはないな。どれとどれが一緒でどれが違うのかというと、ええと……こんなことを考えはじめると混乱するのでうやむやにしたまま次の話題に進むことにするが、日本において一番「男女の機会均等」が実現されていないのは、やはり皇室だろう。
いきなりヤバい方向へ話が飛んでいるような気もするが、なに、気にすることはない。
皇室の問題点は、男性しか天皇になれないと皇室典範に明記されていることである。昔は女性の天皇が何人もいたのに、これでは時代に逆行しているではないか。そもそも、女性が天皇になる道を閉ざしてしまって大丈夫か。早めに皇室典範を改正した方がいいのではないか。皇太子にはいまだに子供がいないし、現天皇の孫といえば女性のみである。近い将来、非常に困った事態になるのではないか。いきなり「私は明治天皇の曾孫である」などと主張し系図も持った男性が登場したりしたらどうするつもりなのだ。
まあ、皇太子に男児が生まれればとりあえずの危機は回避できるわけだが、はたしてどうなるだろうか。実は皇太子は子供の作り方がよくわかっていないんじゃないか、などというウワサもあることだし。
実を言えば、私も子供の作り方に関しては自信がないのだ。ううむ、なんだか恥をさらすようなことを書いているが、こうなりゃついでだ、ここで募集してしまおう。誰か親切な女性の方、子供の作り方を手取り足取り私に教えてください。
……いや、女性のみの募集は禁止されていたのだった。誰か親切な方、子供の作り方を手取り足取り私に教えてください。男女不問。
第205回へ / 第206回 / 第207回へ
目次へ戻る