第344回 世界経済談義 2002.1.6
「はいどうも、セメダインズです」
「みなさま、あけましておめでとうございます」
「おめでとうって、きみ、もう今日は1月6日やないか」
「仕方ないでしょう、今日がわれわれの初仕事なんですから。そして今日がわれわれ、去年の正月以来、一年ぶりの仕事でございます」
「こらこらっ、何を言うてんねん。確かにここに出るのは一年ぶりやけど、他のところではちゃんと仕事してたやろ。そんなこと言うたら、まるで売れない芸人みたいやないか。やめなさい」
「そんなこと言ったら、まるで売れてる芸人みたいじゃないですか」
「いやまあ、確かに大して売れとるわけとちゃうけどな」
「われわれも、早く売れて金持ちになりたいですね」
「そやなあ、売れたいなあ」
「いつもいつも、牛丼屋で並盛と味噌汁食べる生活からは、早く脱出したいものです」
「そうそう」
「僕ねえ、夢があるんです。売れる芸人になって大金持ちになったら、一度でいいから……」
「一度でいいから?」
「特盛に玉子付けて食べてみたい」
「なんやえらいささやかな夢やな」
「漬け物も付けた方がよかったですか」
「いや、そういう問題とちゃうやろ」
「では思い切って、ポテトも一緒に!」
「それはマクドやろ!」
「とまあ、こんな基本的なボケも織りまぜながら漫才しているんですが」
「そんな説明はええねん」
「いやほんと、大金持ちには憧れますねえ」
「しかし大金持ちって、いったいどんな生活しとるんやろね。われわれには想像つかへんわ」
「われわれ、って一緒にしないでください。私は知ってますよ。知り合いに大金持ちがいますから」
「へえ、そうかいな」
「はい、私の伯母の腹違いのいとこの嫁ぎ先の甥っ子の隣に住んでいた人の昔の上司の兄弟子のメル友に当たる人で」
「そら赤の他人やないか」
「その人がたまたま私の叔父さんでして」
「それやったらはじめから叔父さんって言わんかいな」
「そう、その叔父さんがえらい金持ちなんですわ」
「なるほど……って、ちょっと待てや。腹違いのいとこって何やねん。いとこはたいがい腹違いやで」
「って、ツッコミ遅い! ふむ、このあたりが、いまいちメジャーになれない原因か」
「だからそんな説明はええねんって」
「その叔父さんの暮らしぶりがまたすごいんですわ」
「ほう、どんな家に住んでんねん」
「でかい庭付きの大邸宅で、部屋数が全部で四十」
「四十か。そらすごいな」
「四十部屋、すべてトイレ!」
「って、どんな家やねん」
「和式洋式中華式、すべて取りそろえています」
「中華式ってどんなトイレや」
「回転テーブルになっていて、ぐるぐる回るんですわ」
「そんなトイレでやっとったら、目ぇ回るわ」
「でね、さすがに四十部屋すべてトイレやったら暮らしにくいと言うんで、そのうちの一部屋を居間に改造しました」
「そらそうやろな」
「部屋には大きな暖炉を取り付けましてね」
「元トイレの部屋に暖炉か。これがほんまのヤケクソやな」
「……ふむ、このあたりが、いまいちメジャーになれない原因か」
「こらこら! ええやないか。たまにはオレにもボケさせてくれや」
「まあ今のは聞き流すことにしまして。とにかく、部屋には大きな暖炉があるんですわ」
「ほうほう」
「暖炉の上には、真っ赤なバラと白いパンジー」
「ほうほう」
「小犬の横には、あなた〜」
「歌うなっ! 若い人にはわからへんで、そんな歌」
「えっ、こんな有名な歌も知らないんですか。まったく、近頃の若い者は……」
「こらこら、年寄りになってどないすんねん」
「まあそれはともかくとして、その暖炉の横にはでかい彫刻がありまして」
「ほう、どんな彫刻や?」
「こんな格好した彫刻です」
「なるほど。……って、それは暖炉じゃなくてロダンや! 考える人や!」
「とまあ、こういうボケも織りまぜながら漫才しているんですが」
「だから説明はええっちゅうねん。叔父さんの話はどうなったんや」
「そうそう、叔父さん。その叔父さんですが、さすがに大金持ちらしく、夜になると、その暖炉の前で、ロッキングチェアーに座って」
「ほうほう」
「ガウンを羽織り、膝の上には黒猫をのせて、猫の頭を撫でながら、片手にはワイングラス」
「ほうほう」
「最高級のワインを飲みながら、サイドテーブルの上に置いた地球儀を撫でて時たま含み笑いをもらす。ふっふっふ、世界の支配者はこの私だ……」
「こらこら、単なるアブナいおっさんやないか」
「でも実際に世界経済を支配しているのは、この叔父さんですからねえ」
「ほんまかいなそれは。でも、そんなおっさんに支配されてるようなら、世界経済が大不況に陥ってるのもわかるような気がするなあ」
「おっ、なんかえらい社会派のツッコミですな」
「そやろそやろ」
「でも、一般ウケはしませんね。ふむ、このあたりも、いまいちメジャーになれない原因……」
「もうそれはええねん。でも、ほんまに世界経済を支配してるんかいな」
「いや、すいません。世界経済ってのはちょっと言い過ぎでした。ほんまは日本経済……」
「ほう、日本経済でも大したもんやで」
「いや、すいません。日本経済ってのはちょっと言い過ぎでした。ほんまは大阪の経済……」
「なんや、だんだんスケールが小さくなってくるな」
「いや、すいません。大阪の経済ってのはちょっと言い過ぎでした。ほんまは駅前商店街の経済……」
「って、なんや、単なる商店街のおっさんかいな。それやったら、トイレが三十九もある大邸宅に住んでるってのは何やねん」
「実は叔父さん、トイレ屋をやってます」
「もうええわ」
「はい、そろそろおあとがよろしいようで」
「どうも、セメダインズでした」
「みなさま、また来年お会いしましょう」
「それを言うなって!」
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