大阪おふみ密室殺人事件・問題編

竹田寿之

 その事件が起きたのは、MUSCの大阪オフラインミーティングでのことだった。MUSCとは、森博嗣ミステリィユーザーサポートセンター会議室の省略形で、インターネット上にその会議室がある。その日は、いつもは電子上の会議室に(オンラインで)出席している人達が実際に会って(オフラインで)親交を深めようということで、おもに関西からアクセスしているメンバーが高槻のカラオケ屋に集まったのだった。森先生ご自身も、奥様の実家が近いということで、ご参加くださっていた。
 全員がそろい、ひととおり自己紹介も済んだ。なのさんが自己紹介した瞬間、森先生はずいぶんびっくりしていらしたらしいが、その後もっと驚くことがおきようとは、神ならぬ身、この時点では知るよしもない。
 それがおきるまで、出席者のみんなは談笑していた。数日前に開かれた東京でのおふみ(オフラインミーティングの略)と違って、女の子が多いせいか、時折嬌声があがる。ゆーりさんが持ってきた森先生の旧い同人誌や、森先生の持ってきてくださった韓国版「笑わない数学者」をまわし読みしたり、森先生に「笑数」の逆トリックに関するお話をお伺いしたりして、みんな実に楽しそうにすごしていた。
 ぼくの電話乱入、阿東さんの電話乱入のあとで、紅蘭さんが電話乱入してきた。ひとわたり出席者に携帯電話が渡り、それぞれに紅蘭さんとお話をしたあと、最後に携帯電話がなのさんに渡った。その時まで、なのさんは遠路よりはるばると駆けつけた疲れも見せず、実に楽しそうに紅蘭さんとしゃべっていたのだという。
 なにげないようすで、なのさんがお隣に座っていたまるはさんのノートパソコンをのぞき込んだ瞬間にその事件は起きた。なのさんは携帯を取り落すと、胸、続いてのどのあたりをを苦しそうにかきむしった。目は何かに驚いたかのように見開かれている。続いて、床へと昏倒した。お医者様のまるはさんが即座に救命措置を取ったけれども、手当てのかいなく、なのさんはお亡くなりになってしまった。
 目撃した大阪おふみ出席者の話では、なのさんが倒れる直前に、カラオケボックスに出入りした人はいなかったし、特に不審な動作をした人もいなかったという。もちろん、その場にあった携帯電話、ノートパソコンなども徹底的に調べられたが、特に不審な細工をした様子は見られなかった。また、のちにわかったことだが、その場でなのさんが毒物などを摂取したり、摂取させられたりしたようすもなかったという。
 カラオケボックスの入り口の扉には冗談で張られた「密室」の文字。鍵こそかけられていなかったものの、カラオケボックスは事実上の密室状況であった。「密室もの」を得意とするミステリィ作家森博嗣のファンたちのオフラインミーティングで、しかも森先生の出席中に本当に密室で事件が起きてしまったのだった。

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 ぼくはこの事件の全貌を解決できたと思ったので、犯人と目される人物に電子メールで「あること」を聞いて確認をとった。
「…という事件があったんだよね。大阪おふみで。ゆーりさんから聞いているとは思うけれど」
 それから、ぼくは阿東さんに電話を入れて、彼女にもこのなぞが解けるかどうかを聞いてみることにしたのだった。
「あれって、単に、なのさんの体調が悪くて、その場で倒れてお亡くなりになった。ということじゃなかったの」
「まぁ、最終的に、表向きにはそういうことになったみたいなんだけどね、なのさんが横浜から遠路はるばる大阪のおふみに参加してきていて、表面的にはそうは見えなくても、ちょっと疲れていたようだったというのは、条件のひとつではあるけれど、最終的に引き金を引いてしまったのは別のことだったと思うんだ」
「今までの話だと、現場の様子がいまいち良くわからないんだけど、カラオケボックスでみんなが座ったときの並び方はどうだったの?」
「ちょっと待って。えーっと、うりうりさんの話では、そりまちさん、みなみさん、うえださん、こさこさん、一人囃子さん、松本さん、ときてスバル奥様、森先生。それからU田さん、うりうりさん、ゆーりさん、kazさん、西院さん、なのさん、まるはさん。の順だったらしいね。」
「そのとき、なのさんの様子に気づいた人はいなかったのかなぁ」
「それまでさんざん盛り上がっていた上に、ちょうどそりまちさんの"ハイパー"で"あつーい"萌絵論が始まったところで、みんなそっちに気を取られていたから、特に注目していた人はいなかったみたい。だけど、特に不審な動きをしたりした人はいなかった。ここまでの条件だけでぼくと同じ結論は出せると思うよ」
「ちょっと待って、考えてみるから。いったん切るね」



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