第5回   額の裏 1996.9.19


 昨日の引用ネタについて、誰かがどこかでいちゃもんをつけている(笑)ようなので、補足しておきましょう。
 あのネタを引用したのは、あまり知られていない本に載っている面白い話だということと、『(この項目については)ご自由にコピーを』と明記されていた、というのが理由です。私がそんなに安易に引用ネタに頼るわけがないじゃないですか。‥‥って、やっぱり言い訳かな。
 わかりました。宣言します。私は、今後「永久に」引用ネタは使いません。‥‥うーん、ちょっと自信ない。「半永久」くらいに負けといてください。

 というわけで、今日は引用ネタじゃありません。

 出張で某所のホテルに泊まったときの話である。
 その部屋は、一見何の変哲もない客室だった。ベッド、テーブル、テレビ、バスルーム、そして壁には、風景画の入った小さな額。
 ‥‥額?
 私は、常々不思議に思っていた。なぜ、ホテルの客室には、必ずと言っていいほど額が飾られているのだろう。確かに、インテリアとしては適当なのかもしれない。しかし、ほとんどすべてのホテルにあるからには、何か理由があるはずだ。
 私は、額を壁からはずし、その絵をながめた。どこかの無名の画家が描いたらしい、平凡な風景画。水彩で田園風景が描かれている。どうやら絵の方に謎はないようだ。
 そして、額を再び壁に戻そうとしたとき。私は見た。
 壁には、ちょうど額に隠れるようにして、小さなお札(ふだ)が貼られていた。「怨霊封印」などと書かれた、どこかの神社のお札が。
 私は、急に不安になった。過去、この客室で何があったのだろう。自殺? それとも殺人?
 そっとあたりを見回す。さっきまで普通の客室と思っていたのだが、今は不気味な雰囲気が漂っているように感じるのは気のせいか。
 いたたまれなくなった私は、早々に眠りにつくことにした。

 そして真夜中。ふと目を覚ますと、暗がりの中、枕元には薄く透き通って見える人影が‥‥という展開にでもなれば面白かったのだが、あいにく、何事もなく夜が明けてしまった。少し期待していたのに、残念である。

 それ以来私は、ホテルに泊まるたびに額の裏を確認することにしている。しかし、幸か不幸か、お札を見つけたのはあの一度きりである。


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