今読んでいる本は、スティーブン・ジェイ・グールドの『八匹の子豚』(早川書房)です。生物学の本で、大学の専攻にも今の仕事にもまったく関係ないのですが、なぜか好きなのです。あと、生物学関連では、リチャード・ドーキンスやライアル・ワトソン(笑)なども愛読しています。
しかし、今日のネタは生物学とはまったく関係なし。
その日、私は、義理で退屈な講義を聴講していた。
「定年退職するベテランが、若手社員に対して仕事のノウハウを伝授する」というものである。
その中で、このような使い古された話が出た。
二人の靴セールスマンが、ある未開地に市場調査に行った。二人の調査した内容はまったく同じだったが、出した結論はまったく別だった。
A「まったく見込みなし。当地では、靴をはく習慣がない」
B「大いに見込みあり。当地では、まだ誰も靴をはいていない」
もちろん、この場合、Bの出した結論の方が「正解」ということになる。つまりは、「プラス思考で物事を考えろ」という教訓なのだが、説教臭い話に飽きてきた私は、このエピソードのアラ探しをはじめた。
本当にBの方が正解なのだろうか。何か、見落としはないか。‥‥そもそも、なぜ、この土地の人々は靴をはいていないのだろう。
そうだ、このエピソードを少し変えて、こうしてみたらどうだろう?
二人の豚肉のセールスマンが、あるイスラム教の国に市場調査に行った。二人の調査した内容はまったく同じだったが、出した結論はまったく別だった。
A「まったく見込みなし。当地では、豚肉を食べる習慣がない」
B「大いに見込みあり。当地では、まだ誰も豚肉を食べていない」
さて、この場合でも、Bの出した結論の方が正解だろうか?
もちろん、違う。豚肉を食べないのは宗教上の理由からであり、いくらセールスしたところで売れるわけはないのだ。つまりBは、「豚肉を食べていない」という現象だけに注目し、その理由を調べることを怠った。この例では、Aの結論の方が正解だろう。
そして、靴セールスマンの例でも、「なぜ靴をはいていないのか」の理由の調査が抜けている。従って、Bの出した結論は不十分、ということになる。
‥‥よし、アラがあったぞ。これはひとつ、質問してみるか‥‥。
しかし、時すでに遅し、いつのまにか退屈な講義は終わってしまっていた。