第22回   ボケとツッコミ 1996.10.7


 朝は8時に起きました。
 会社行きました。仕事しました。帰ってきました。特に変化のない一日でした。
 それで今、これを書いています。
 ‥‥あああ、だめだ。やはり私の場合、「その日にあった出来事」を書いてもまったく面白くない。

 というわけで、今日のネタはこれ。


 漫才におけるボケとツッコミには、基本的なものから高度なものまで、いくつかのパターンがある。
 まずは、その基本的なものから見ていただこう。(なお、この例はオール阪神巨人のネタより拝借)

 A「きみ、血液型、何型や?」
 B「子供の頃調べたときはB型やったけど、最近は調べてへんからわからへんわ」
 A「あほ、血液型が変わるかい!」

 専門用語で言えば(どこが)、Aの最初の発言が「ネタ振り」、Bの発言が「ボケ」、次のAの発言が「ツッコミ」である。この例は、もっとも基本的なもので、ボケに対して素直にツッコんでいる。この程度の技は、大阪人なら身につけていて当たり前である。
 次の例は、もう少し高度になった、いわゆる「ノリツッコミ」というもの。

 A「きみ、血液型、何型や?」
 B「子供の頃調べたときはB型やったけど、最近は調べてへんからわからへんわ」
 A「ああ、そういえば、おれも最近調べてへんな。明日病院へ行って来よう。‥‥って、あほ、血液型が変わるかい!」

 このように、相手のボケにとりあえずノっておいて、一呼吸置いてからツッコむ、これが応用技である。これができれば、胸を張って「一人前の大阪人」と名乗ることができる。
 そして、さらに高度な技、「ツッコミボケ」がこれ。

 A「きみ、血液型、何型や?」
 B「子供の頃調べたときはB型やったけど、最近は調べてへんからわからへんわ」
 A「あほ、血液型がそんなにコロコロ変わるかいな。結婚してはじめて変わるんや」

 このように、相手のボケにとりあえずツッコんでおいて、その上でボケ返している。
 前の2つの例では笑いを取っているのはBの発言だったのだが、ここではそれがAの最後の発言に移行しているのに注目してもらいたい。「ウケを取るのは、相手に渡さない」という大阪人の負けず嫌いの性格が見事にあらわれている。
 実は、この技を自由自在に操れる漫才師は、プロでもそう多くはない。ボケとツッコミの役割分担がきちんと出来ているコンビでは難しいからだ。オール阪神巨人や、かつてのやすきよのように、「双方がボケツッコミ、どちらでも出来る」というコンビがこれを得意技としている。
 そして、アドリブでこの「ツッコミボケ」を使いこなせるようになると、晴れて「おもろい奴」との称号を得ることが出来る。すべての大阪人は、この称号をめざして日夜奮闘努力しているのだ!(‥‥たぶん)。

 そしてもう一つ、さらに高度な技を紹介しよう。これは数年前、ある若手コンビ(残念ながらコンビ名は失念。ひょっとすると、当時「若手実力派No.1」と言われていた、今は亡きベイブルースだったかもしれない)が演じていたものを見て、「そうか、その手があったか!」と感心した覚えがある(こういうのは、漫才の見方としては邪道なのだが)。
 設定としては、「二人で漫才の練習をしている」というもの。

 A「おれらもな、有名になるためにはもっと沢山練習せなあかん」
 B「そうやな」
 A「よし、今から練習するで。おれがボケるから、お前、ちゃんとツッコんでくれや」
 B「OK!」
  ‥‥‥‥
 A「どうも、皆さん、ようこそいらっしゃいました」
 B「なんでやねん!」
 A「あほ、早いわ! まだボケてないやろが! ‥‥しゃあない、やり直しや。今度はちゃんとやれや」
  ‥‥‥‥
 A「どうも、皆さん、ようこそいらっしゃいました」
 B「よろしく!」
 A「いやあ、毎日暑い日が続きますねえ。8月でこんなに暑かったら、12月になればどれだけ暑くなるか、心配ですわ」
 B「‥‥‥‥」
 A「おい! ツッコめや!」
 B「‥‥え?」
 A「今、ボケたやろ! ちゃんとツッコまな、あかんやんか!」
 B「え? 今の、ボケやったん? おれ、どれだけ暑くなるのか、真剣に悩んどった」
 A「あほ!」
 (ああ、やはり文章で書いては、面白さが全然伝わらない‥‥)

 読んでわかると思うが、設定としては「ボケ役」のはずのAが実はツッコミであり、「ツッコミ役」のはずのBが実はボケである、という、なかなか高度な技である。しかも、「設定としての漫才」のネタにはオーソドックスなものを使用し、シュールになりすぎないように配慮している。かなりの実力の持ち主でないと、こういうネタを演じることは出来ないだろう(それだけに、コンビ名を忘れたのは痛い)。

 さて、このような漫才は、なんと呼ぶべきだろうか。
 「またそれか!」と言われそうだが、私はやはり、「メタ漫才」と呼びたい。


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