第21回   彼と彼女 1996.10.6


 というわけで、タイトルを元に戻しました。「戻ってない!」と思うかも知れませんが、それはたぶん気のせいです。
 ‥‥しかし、不調です。昨日調子に乗って飲み過ぎたせいか、いまだに宿酔い状態です。だから、今日のネタは簡単にして、早めに寝たいと思います。

 英語はいろいろと大変らしい。何が大変かというと、「彼」と「彼女」の区別である。
 たとえば、chairman(議長)などのように、男性とは限らない役職名にmanが入っていると問題になるらしい。そこで、chairpersonのような造語を発明しなければならなかった。
 また、ことわざなどでも、人間一般を表すときにはhe(彼)を使っていたものが、男女の区別のないone(人)に置き換えて、
  He who laughs last laughs longest.(最後に笑うものがもっともよく笑う)
を、
  One who laughs . . .
と変更する、などしているらしい。

 これに対し、日本語は便利である。基本的に、男性と女性の区別を、言語形態のどこにも示す必要のないタイプの言語だからだ。
 「‥‥様」や「‥‥さん」は男女両方に使えるし、「議長」「俳優」「主人公」などの呼称も男女の区別はない。だから、英語で起こっているような問題は本質的に起こり得ないはず‥‥なのだが、例外がいくつかある。そのうちのひとつが、「彼」と「彼女」の使い分けである。
 もともと日本語の三人称代名詞は、「彼」しかなかった。現に、森鴎外の『舞姫』などでは、エリスという女性を一貫して「彼」と呼んでいる。
 では、「彼女」という代名詞はどこから来たのか。実は、英語のsheの訳語として、明治時代に作られたのである。それが、西洋文化の流入とともに、これだけ一般的に使用されるようになってしまった。

 もともと「形態的に男女差別をしにくい言語」だった日本語に、わざわざこのような新語を導入してしまったのはまずかった、と私は考えるが、もちろんこれは後知恵である。当時の日本で、そのようなことを考えている人などいなかっただろうから。

 ‥‥うーん、やっぱり今日は不調。いつも不調かもしれないけど。


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