第20回   抜き打ちテスト 1996.10.4


 最初にお礼から。昨日のネタ、特に『ちびまる子ちゃん』の最終回について、情報やツッコミをお寄せいただいた皆様、ありがとうございました。
 うーん、そろそろ「うんちくん通信」でウケがねらえるのも限界でしょうか。そろそろこのタイトルもやめようかと思います。(ほらほら、かわちゃん、早くツッコまないと元に戻っちゃうぞ)

 といったところで、本日のネタはこれ。 

 秋。
 私は、後期から始まるある講義を受講することにした。
 水曜の2限目。今日は、その初日である。
 講義の前に、教授から、単位取得についての説明があった。期間内に一度、抜き打ちテストをおこない、その結果によって合否を判定する、と。
 私は質問した。
 「『抜き打ちテスト』とは、どういう定義ですか?」
 教授は、細かいことを訊く奴だとでも言うように訝しげに私を見て、答えた。
 「当日になるまで、おこなわれることが予想できないようなテストです」
 その答えを聞いて、私はほくそ笑んだ。しめしめ、この教授も馬鹿なことを言ったものだ。これは「死刑囚のパラドックス」ではないか。これで、抜き打ちテストをすることはできないぞ。
 「死刑囚のパラドックス」とは、論理学では割と有名な話で、このようなものである。

 裁判で、ある被告に対し、死刑の判決がくだされた。
「死刑は、今週の金曜日までに執行すること。執行日は、当日の朝に本人に通知される。ただし、当日の朝が来るまで、今日が執行日だとはわからないようにしなければならない」
 この条件の下で、死刑執行が可能な日というのはいつだろうか。金曜日に執行することができないのはすぐわかる。なぜなら、木曜日の朝に執行通知がなかったとすれば、残る日は金曜日しかないので、金曜日に執行されるということが木曜日の時点でわかってしまうからである。
 したがって、死刑執行可能日の最終日は木曜日ということになる。しかし、木曜日に執行することもできない。なぜなら、水曜日の朝に執行通知がなかったとすれば、金曜日には執行できないので、木曜日に執行されるということがわかってしまうからである。
 したがって、死刑執行可能日の最終日は水曜日ということになる。しかし、水曜日に執行することもできない。なぜなら‥‥。
 このように考えていくと、結局、死刑執行可能日はなくなってしまうのだ。したがって、死刑を執行することはできない。

 私は、安心してその講義を受けることにした。抜き打ちテストは、論理的に実行できないので、気楽なものである。それよりも、この事態を教授がどのように解決するかが見物である。いったい、どうやって成績をつけるのだろうか。

 そしてある日、私が講義に出席すると、いきなり教授が解答用紙を配りはじめた。抜き打ちテストをするというのだ。
 私はさっそく抗議した。「死刑囚のパラドックス」を説明し、抜き打ちテストは論理的に実行できないことを示した。私の説明を聞き終わると、教授は言った。
 「するときみは、今日このテストがおこなわれるとは思わなかったわけですね」
 「ええ、まったく予想外でした」
 「ならば、抜き打ちテストの定義にちゃんとあてはまっているじゃないですか」
 教授の微笑は勝ち誇ったように見えた。


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