第33回   100%ビーフ 1996.10.19


 某ハンバーガーショップのカウンターの向こう側には、「スマイル¥0」の表示があります。
 実は、「この『スマイル』が買える」という噂がありまして、カウンターで「スマイルください」と言うと、店のおねえさんがにっこり笑ってくれるそうです。「スマイル3つください」と言ったらおねえさん3人が並んでにっこりしてくれるとか。
 まあ、単なる噂なので実行してみないでください。

 今日は、ハンバーガーショップにまつわるもう一つの噂について。ただし、単なる都市伝説から派生した妄想なので、あまり真剣に読まないように。

 ハンバーガーチェーンの故郷アメリカでは、1970年代後半から根強く流れる噂がある。ハンバーガーの挽き肉は蛋白質を加えるために実はミミズを使用している、という噂だ。(その他、猫肉や犬肉などの噂もポピュラーである)
 面白いのは、この「ミミズ説」が、しばしば噂の流通者自身によって荒唐無稽と断じられ、その理由として、ミミズの肉の方が牛肉より高価であることをあげている点である。ということは、ミミズの肉が市場に安く出回っていれば、ハンバーガーショップの客はこの不愉快な噂を念頭にしてハンバーガーを味わわなければならなかったことになる。
 しかし、なぜ味のことが問題にならないのか。誰もミミズの肉を食べたことがないから、というのでは不十分である。なぜ、みんな、あれが牛肉だと素直に信じようとしないのだろう。

 ハンバーガーにはさまっているのは、ハンバーグである。ハンバーグとは、私の持つ概念では、普通は牛肉と豚肉の合い挽きで、そこにつなぎとして卵や小麦粉、パン粉、牛乳、タマネギのみじん切り、それに好みで胡椒やナツメグなどを入れたものであって、「挽き肉だけ」を平たく形作って焼いても、おいしいものにはならないはずである。
 しかし、「JAS認定100%牛肉上級パティ」「いつもおいしい100%ビーフ」などの決まり文句は、包装紙に印刷され、CMでもあれほど叫ばれている。これは、一種の暗号であろう。

 この「100%ビーフ」という暗号の意味するところは何か。ハンバーガーショップ側が読み取って欲しがっている「牛肉だけで作ってあります。よそのチェーン店みたいに脂いっぱいの豚肉なんか混ぜていませんよ。100%、牛の挽き肉だけなんですよ」というメッセージは、私には、次のように映ってしまうのである。

 へっへっへ。「100%ビーフ」っちゅう材料を使うてハンバーグを作りましたんや。普通のハンバーグに入っとるようなものが入っとるんとはちゃいまっせ。どないです? 何が入っとるんかわからへん、不気味な味でっしゃろ? これが「100%ビーフ」っちゅう材料の味ですわ。何が原料かって? あんた、そりゃ、企業秘密ですがな。
 (なぜこういうときだけ大阪弁になるのだろう‥‥)

 そこで想像力は、「100%ビーフ」とはどんな材料を使うのか、どのように工場で作るのか、へと向かう。誰も見てきた者はいない。カウンターの向こう側の作業でさえ、見たいところは見えないようになっているのだ。
 あとは、食べた感じで推理するしかないだろう。豚肉や鳥肉、魚肉ではない。ではまだ食べたことのないものか。猫肉か犬肉、やっぱりミミズの肉かも‥‥と、妄想は行き着くところを知らない。まさに諸説紛々であるが、まだ納得できる「噂」は登場していないのだ。
 いつの日か、ハンバーガーショップが「牛」を前面に出して、「これは牛だ!牛を殺して肉にしたんだ!」と叫び、まさかりで牛を殺すところから始まるCMを放映する日まで、妄想は続く。


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