「秋ナスは嫁に食わすな」という言葉があります。これは誰の言葉かというと、それはトマス・アキナスです。‥‥などと言うとみやちょになってしまうので、ここはやはり穏当にゲーテが言ったことにしておきましょう。
では一体、なぜ秋ナスを嫁に食わせてはいけないのでしょう。これにはさまざまな説があり、どれが正解かはわかりません。とにかく、その説をひとつずつ紹介していくことにします。
その1。
あるところに、意地悪な姑といつもいじめられている嫁がいた。秋になってナスが採れたが、秋ナスは身が引き締まっていてうまい。そこで、この姑は「誰が嫁なんかに食わせてやるものか、ひひひ」と言って一人占めにしてしまった。
なんだかひどい話のようだが、実際にありそうな話ではある。
その2。
あるところに、やさしい姑といつも可愛がられている嫁がいた。秋になってナスが採れたが、秋ナスを食べると体が冷えてしまう。そこで、この姑は「大事な嫁が体をこわしてはいけない」と言って自分が食べてしまった。
なんだか心あたたまる話のようだが、一人占めにするという点ではその1と同じなのでだまされてはいけない。
その3。
秋ナスには種がない。これは「子種がない」につながる。嫁に食わせて、跡取りができなくなっては困るので食わせないようにしよう。
なんだか説得力のありそうな話だが、よく考えてみると、この説の場合は「秋ナスは婿に食わすな」の方が正解ではないか?
その4。
ナスの形は子宮の形に似ている。そこで、ナスが生長してだんだん大きくなってぶら下がる姿と、子供を産んだ後の子宮が大きくなったまま伸びて下の方に垂れ下がるのを重ね合わせた。そこで、「子宮が垂れ下がってはいけない」ということで食わせないようにした。
なんだか医学的な話のようだが、子宮が垂れ下がるとどうなるのだろう? 胃下垂は聞いたことがあるが、子宮下垂ってのは初耳である。
その5。
この言葉は「親の意見とナスビの花は、千に一つも無駄がない」の続編である。ナスの花には必ず実がなる。ただでさえ子沢山で貧乏しているのに、これ以上「実がなって」子供が増えては困る。だから食わせないようにした。
なんだがそれらしい話のようだが、これはたったいま私がでっち上げた説なので信じてはいけない。
その6。
秋ナスには大腸菌がつきやすい。特に、O-157はつきやすくなっている。だから、食中毒になっては困るので、食わせないようにした。
なんだかたったいま私がでっち上げた話のようだが、そのとおりである。
その7。
「秋ナスは嫁に食わすな」を逆から読むと、「なすわくにめよはすなきあ」となる。これは「為す和国め、世は砂きあ」と解釈できる。すなわち、「日本の勢力が拡大してくると、世界は砂漠のように荒涼としてしまう」という意味で、第二次世界大戦中に日本に支配されていた東南アジアの人々が、密かにその悲しみを読み込んだ言葉である。
なんだか穴の多い話のようだが、「きあ」が解釈されていないのが最大の穴である。
その8。
「秋ナスは嫁に食わすな」は、「アキーナ、スーワ、ヨメーニク、ワスナ」と解釈できる。これはヘブライ語で「御前に聖名をほめ讃えん」という意味であり、すなわち、キリストが日本へやってきたことの証明である。
なんだかでたらめな話のようだが、もちろん、このヘブライ語はでたらめである。
‥‥などと、仮説をいくら紹介してもらちがあかない。実地検証が一番である。
実際に秋ナスを嫁に食わせてみればすぐにわかるはずだ。と思ったが、私には嫁がいないのである。だから、まず嫁探しからはじめなければならない。
プロポーズの言葉は、そうだな、やはり、「おれと一緒に秋ナスを食ってくれ」だろう。