第68回   ウナ 1996.11.26


 ウナ、という言葉があります。
 これは、「至急」とか「緊急」とかいった意味で、書類の表紙やメールのサブジェクトなどに「ウナ!」と書いてあれば、それは「早く読んでくれ!」という意味になります。学生の皆さんは、あまり聞いたことがないと思いますが、覚えておけば、社会人になったときに少しは役立つかもしれません。
 では、一体なぜ、「ウナ」が「至急」という意味になるのか?
 調べればわかるのですが、めんどくさいので、その辺にいる人に聞いてみることにしましょう。

Aさんの説
「ウナとは、ウナギのことである。ウナギの蒲焼きは、冷えたらまずい。熱いうちに、急いで食べなければならない。だから、急ぐことをウナと言うようになった。誰の考案かはわからないが、明治三十年代の流行語であり、それがいまだに使用されているのである」
 ‥‥ありがとうございました。なかなか説得力のある説でした。

Bさんの説
「ウナは隠語である。隠語の作り方の一つとして、言葉をひっくり返す、という方法がある。たとえば、女がナオン、宿がドヤ、というように。ウナも同じで、ナウ(今すぐ)をひっくり返したものである」
 ‥‥別の説が出てきましたね。困りました。もう一人聞いてみましょう。

Cさんの説
「本当はモールス信号である。アメリカでは、モールス信号で緊急電報を打つとき、頭にurgent(至急)を意味するurをつける、という習慣があった。アルファベットのuとrは、モールス信号ではそれぞれ『・・―』と『・―・』である。そして、『・・―』と『・―・』は、和文のモールス信号ではウとナをあらわす。だから、日本に持ってきたときにurの代わりにウナが使われるようになった」
 ‥‥おお、これは説得力があるぞ。でも、念のためもう少し。

Dさんの説
「語源はウナコーワだ。ウナコーワは塗ればすぐ効く。だからウナ」
 ‥‥それはむしろ、逆のような気がしますね。次の人。

Eさんの説
「ウナは韜晦である。しかし、ウナとイデア‥‥彼我の乖離は、唯物史観的に弁別すれば必ずしも理解不能性を顕示するものではない。シニフィアンとシニフィエが絶対矛盾的自己同一性により知的合一を果たす時、忖度された俗情との結託は止揚される。畢竟、ハイデッガー哲学の被投的企投を鑑みるに、そもそもウナとは‥‥」
 ‥‥えー、長くなりそうなので打ち切らせていただきます。どうかお大事に。

Fさんの説
「ウナというのは、ウッチャンナンチャンのことである。ウッチャンナンチャンは仕事が速い。そこで、ウンナンを略してウナ」
 ‥‥かなり苦しくなってきました。そろそろオチが欲しいところだが?

Gさんの説
「上沼恵美子は、関西芸能界のドンである。彼女に反抗しては、芸能界で生きてはゆけない。その上沼恵美子だが、漫才師時代の芸名は海原万里といった。すなわち、ウナ原万里には逆らウナ」
 ‥‥おあとがよろしいようで。

 うーむ、結局、どれが正解かわからなかったな。まあいいか。

今日の一首
 ウナだれて ウナづくウナじ 泣きそウナ ウナってどウナる もうためらウナ


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