第77回   富士に立つ影(昨日の日記) 1996.12.10


 三島駅の北口を出ると、目の前には富士山がそびえていた。
 すでに五合目付近まで冠雪している。雪と地肌のコントラストが美しい。なだらかな稜線はほぼ左右対称に伸び、家々の屋根へと埋没していた。惜しむらくは、昨日は曇天だった。頂上付近に、うっすらと雲がかかっている。
 富士山をゆっくりと眺めるのは、何年ぶりのことだろう。そう考えると、ごく自然に、一句浮かんだ。

 来し冬の 雲に霞むや 不二の峰

 ‥‥しかし、自分で言うのも何だが、駄句である。こんなくだらない俳句を詠んだりしたら、アヒルに怒鳴られてしまうかもしれない。怒鳴るど駄句。

 それはそれとして、富士山は日本一の山である。鎌倉時代あたりから、そういうことになっているらしい。
 もちろんこれは、今でこそ誰でも知っていることだが、昔は標高をきちんとはかる方法などなかったはずだ。では、どうして、富士山が日本一の山だとわかったのだろう。
 日本で二番目に高い山に比べて、富士山の方がはるかに高かったのだろうか。それなら、目分量でもなんとかわかりそうである。ならば、日本で二番目に高い山とは‥‥うっ、わからない。
 そうだ、確か、山の高さをあらわすことわざがあったはずだ。それによると、一番が富士山、二番が鷹山、三番がなすび山である。しかし、鷹山とかなすび山とかいう山は聞いたことがない。どうやら、このことわざはあまり信用できないようだ。
 ことわざをもうひとつ思い出した。それによると、一番が姫山で二番が太郎山であるが‥‥これが間違っていることは明白である。第一、富士山が出てこない。
 さらにことわざを思い出した。富士山麓オウム鳴く、というやつだ。いや、これはことわざではなかった。オ●ム真理教が富士山総本部を作ってからできた流行語である。「ああいえば上祐」と同じようなもので、まったく関係なかった。

 などと、くだらないことを考えていたわけだが‥‥そうだ、「何をしたか?」も、ちゃんと書いておかなければ。しかし、企業秘密が関係してくるので、詳しくは書けない。

 まず、三島駅から御殿場市の秘密の客先Aへ。そこで秘密の作業をおこなう。続いて裾野市の秘密の客先Bへ。そこで秘密の会談をおこなう。これで秘密の仕事は終了、三島駅へ戻る。
 三島駅から秘密のこだまに乗り、静岡へ。秘密のひかりに乗り換えて秘密の京都駅に到着。さらにJR京都線に乗り換えて秘密の駅で降りて秘密の自宅へ秘密帰宅。

 こんなもので、秘密フェチの方々は満足していただけるだろうか? いただけないような気がするが、まあいい。
 しかし、なぜか最近フェチが流行っているようだ。
 まあ、ラバーフェチあたりはいいとしても、秘密フェチ、徒歩フェチ、テロルフェチ、不明フェチ、ダジャレフェチ、爆乳フェチ、メガネっ娘フェチ、Fetchフェチ。なんでもかんでも、フェチを付ければいいというものではないだろう。やはりそれは、かんがフェチがい、というものだ。


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