第86回   出張報告 1996.12.19


 突発的に出張がはいった。
 どうやら客先でクレームが発生したらしい。場所は、山口県の小郡である。私はさっそく、新幹線で小郡へと向かった。
 小郡駅で待っていたのは、小郡営業所の担当者である。彼の話によると、客先はここから北へのぼったところ、かなり山の中にある。最近、私の会社の製品を工場の装置に導入したのだが、その調子がよくないらしい。山口山地の装置群、このごろ少し変よ、ということだ。

 私は、営業担当者の乗ってきた社有車で、その客先へと向かった。車の中で私はその会社についての詳しい話を聞いた。何しろ、あわてて飛び出してきたのでどんな客なのかまったく予備知識がなかったのだ。
 詳細をここに書くわけにはいかないのが残念だが、会社の規模はかなり大きい。小郡には、多くの工場のうちの一つがある、ということだ。
 そして、その客が売り上げにどれだけ寄与しているかを聞いたのだが、なんと、たったの16万円である。それではわざわざ出張するほどのことはなかったか、とも思ったが、売り上げ寄与はこれから増えるだろうし有力な客先なのできちんとフォローしておく、ということらしい。寄与はまだ〜、有力だから〜、ということだ。
 などと営業担当者と話しているうちに、車は客先に到着した。

 あいさつもそこそこに、客先の生産技術担当者と共にその装置を見た。なんとか稼働してはいるが、確かに調子がよくないようだ。私は原因を調べ始めた。
 色々と調べたが、どうも原因らしきところは見つからない。一体どこが悪いのだろう。あと考えられるとすれば‥‥そうだ、ひょっとして、内部に組み込まれているICが間違っているのかもしれない。私は客に聞いてみた。
「いえ〜い、IC合ってるかい?」
 それが正解だった。やはり、ICが間違っていたのだ。ICを交換すると、動作は正常に戻った。

 そんなわけで、出張の目的は簡単に片づいてしまった。時間が余ったので、せっかくだから工場の中を見学させてもらうことにした。
 かなり広い工場で、社員の数も多い。建物も製造設備も新しく、歩いていて気分がよかった。しばらくすると、休憩室が目に入った。畳敷きでこたつも置いてある、和風の休憩室である。そこでは、数人の社員が丹前を着てくつろいでいた。社員、小社員、丹前と、というわけだ。‥‥いや、小社員とは何か、などと聞かないでほしい。

 見学も終わり、営業担当者に小郡駅まで送ってもらって、私は新幹線で大阪へと向かった。
 今回の出張は楽な方だったが、これはあくまでも例外である。普通はもっときついので注意が必要だろう。上司に「出張してくれ」と声をかけられないよう、注意せねば。出張言葉にご用心。


 念のために言っておくが、このような出張報告書を提出しているわけではない。


第85回へ / 第86回 / 第87回へ

 目次へ戻る