国道171号線ぞいにあるファミリーレストラン。平日の昼下がりで、客は少ない。
私と千秋は、窓際の席に座っていた。千秋の澄んだ瞳は、私の視線を避けているようだが、私も千秋をまともに見られないでいた。気まずい沈黙。なかなか話を切り出せない。
やがてコーヒーが冷めたころ、どちらからともなく口を開いた。
「なぜ今さら会おうという気に‥‥」
「わからない?」
「二人の関係は、去年のクリスマスで終わったはずだけど‥‥。もしかして、寄りを戻そうと? 何しろ今日は晴れているから、空は青空〜、二人は和解〜、‥‥なあんて」
もちろん、そうでないことは二人ともわかっている。
そう、私と千秋はつき合っていた。始まったのは夏で、別れたのはクリスマスだ。詳細は省くが、吸った揉んだがありました、というところである。二人の関係はそれで終わった。終わった、と思ったのだが‥‥。
「実は‥‥子供ができたみたいなの」
千秋がぽつりと言う。
「‥‥そういうことか」
「わかってるだろうけど、あなたの子よ」
「さて、それはどうだか‥‥」
「何を言うの! 逃げるつもり?」
「新しい男がいるんだろう? そいつの子じゃないのか?」
‥‥さて、どうやって納得させよう? ここで論破されるわけにはいかない。論破ルーム。‥‥などとダジャレを考えている場合ではなかった。
「いま妊娠四ヶ月よ。だから、あなたの子に間違いないの」
「もう四ヶ月なのか? 早く堕ろさないと‥‥」
「‥‥いいえ、産むわ。だから、認知してね」
‥‥この台詞。どうやら人生の転機になりそうである。
「‥‥知らない。おれは知らないからな」
私はびっくりして立上がる。
「知らないって、そんな‥‥」
「ホントに知らないんだから。じゃあ、これで」
「待ちなさいよ!」
千秋は逃げていった。
だが、そう簡単にあきらめるわけにはいかない。千秋を、私のお腹の子の父親に仕立て上げるまでは。
しかし、千秋もずいぶん情けない男である。育児なし、というところか。