第124回   張るは曙 1997.3.19


 今日は大相撲春場所十一日目である。せっかくだから見に行こう、と思って、大阪府立体育館へ向かった。
 到着したのは幕内の取組が始まるころだった。今日も「満員御礼」の垂れ幕が下がっている。空席があるじゃないか、という細かいツッコミは置いといて、私は桟敷席に座った。

 土俵では、小錦と大飛翔がにらみ合っていた。小錦も、今場所はなかなか苦労しているようだ。2日休場の後3連敗。6日目にようやく1勝した。星がありません勝つまでは、というやつだ。
 小錦と大飛翔の取組。両者、がっぷり四つに組んだ。左四つである。小錦が寄るが、大飛翔もがんばってこらえている。いったん離れて、今度は右四つになった。力士は組みかえす、である。しかし、大飛翔も限界が来たようで、小錦に寄り切られてしまった。やはり、この体重差はいかんともしがたい。寄らば体重のおかげ、である。

 その後の取組は省略して、いよいよ結び前だ。曙対貴闘力。注目の一番である。
 しかし、あっさりと決着がついた。曙の張り手をくらった貴闘力は、体育館の窓を突き破って外まで吹っ飛ばされたのだ。さすが、曙は強い。張る一番だ。

 そして、結びの一番。貴乃花対大至だ。対戦成績は4−0で貴乃花だが、ぜひ大至にもがんばってもらいたい。そのためには、やはり先手を取ることだろう。先んずれば人を制す、ということだ。中学時代、私の友人がこれを「せんずれば‥‥」と読んだことがあったが、まあこれは余談である。
 そんなことを考えているうちに取組が始まった。あっさり決まるかと思ったが、大至がねばっている。貴乃花も、なかなか技をかけられない。手に汗握る攻防である。攻防大至。
 業を煮やしたのか、貴乃花はいったん離れて大至の背中に回った。脇の下から頭を入れ、手を大至の頭に回す。さらに、足を大至の足にかける。この技はどこかで見たことがある‥‥そう、卍固めだ。‥‥いや、よく見ると卍固めとは微妙に違う。「卍」ではなく「田」の形になっているようだ。するとこれは田固めか。
 大至の顔が苦痛にゆがむ。そろそろ限界だろう。ギブアップだ。貴乃花は技を解く。土俵に崩れ落ちる大至。行司が貴乃花の手を高々とあげ、場内にゴングが鳴り響いた。田固めに鐘は鳴る、である。


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