「次の方、どうぞ」
「‥‥先生、お願いします」
「おお、これは、なかなかきれいな奥さんじゃないですか。さっそく診察しましょう。さ、脱いで脱いで」
「でも先生‥‥」
「ためらうことはありません。黙って座ればピタリと当たる、日本で二番目の名医の私にまかせなさい」
「ホントにわかるんですか?」
「わかります。私はウソをついたことはありません。クレタ人じゃないんだから」
「では、お願いします‥‥。しかし先生、流石ですね。私を診察して子供の病気がわかるなんて」
「‥‥‥‥。こらこら、それを先に言いなさい。で、その子供はどこに?」
「はい、車の中に置いてきました。パチンコ屋の駐車場です。今日はとりあえず、話だけでもと思いまして」
「うーむ‥‥まあいいでしょう。あ、服は着なくていいから。ついでだから、そのまま話を聞きましょう」
「そうですか、じゃあこのまま。‥‥実は、六ヶ月になるうちの息子が、ちょっとおかしいんです‥‥その、おしっこが‥‥」
「ははあ、おしっこの出るところがあなたと違う、と。心配はいりません。子供さんは男の子なんでしょう? お母さんと違うのは当然です」
「いえ、そうじゃなくて‥‥」
「え? すると、お父さんとも違うと? 心配はいりません。大人になればちゃあんと‥‥」
「いえ、そうじゃなくて‥‥。つまり、おしっこが黄色いんです」
「‥‥は? それは当たり前なのでは?」
「そんな気休めを言ってもらわなくても結構です。私の息子は、不治の病におかされているんですね? ああ‥‥」
「いや、だから当たり前だと‥‥」
「だって、だって‥‥。おむつのコマーシャルを見ていると、みんな青いおしっこをしてるじゃないですか!」
「あれはコマーシャルだから‥‥」
「コマーシャルがウソをつくわけがありません! JAROに摘発されます! ああ‥‥あとどれくらい生きられるんでしょうか?」
「いや、だから‥‥」
「何か特効薬はないんですか? そうだ、硫酸銅溶液を飲ませればいいかも‥‥」
「‥‥それはやめた方がいいですよ。困ったなあ、なんと説明すればいいか‥‥。そうだ、お母さん、生理用品のコマーシャルを思い出してください」
「はい?」
「あのコマーシャルでも、青いでしょう? あなたのとは違いますよね?」
「‥‥そういえば、そうですねえ。‥‥あ、そういうことでしたか」
「わかっていただけましたか」
「はい、わかりました。青くないのは、遺伝だったんですね」