電気クラゲの話である。
電気クラゲと言っても、電気ウナギや電気ナマズや電気グルーヴや電気ブランのように、本当に電気を放出するわけではない。刺されたときに感電したようなショックがあるから俗にこう呼ばれているだけだ。
電気クラゲなどの電気系の生物の研究では、国枝史郎が第一人者である。その業績は『国枝史郎電気文庫』にまとめられているが、残念ながら今は絶版になっている。比較的入手しやすいのは夢枕獏や菊池秀行の著作だろうか。しかし、これらはあくまでも小説なので注意してほしい。
電気クラゲの正式名は、カツオノエボシである。やはり、カツオのかぶる烏帽子のような格好をしているのだろう。‥‥と言われても、なかなか想像するのはむずかしいだろうが。
だいたい、獅子が烏帽子をかぶったり猫が杓子をかぶったりするのはよく聞く話であるが、カツオが烏帽子をかぶった、という話はあまり聞かないのだ。さらに、同族にはカツオノカンムリやカツオノタタキなどというのもいてややこしい。まあ、カツオノタタキは海ではなく玄関先にいるのでなんとか区別できる。
で、このカツオノエボシであるが、実はクラゲ類ではないのだ。クダクラゲ類に属しているのである。似たようなものじゃないか、と思うかもしれないが大違いである。どれくらい違うかというと、キツネとクダギツネくらい違うのである。
具体的な違いは、個体か群体か、という点にある。カツオノエボシは浮き袋と触手を持ち、外見は普通のクラゲに似ている。しかし、浮き袋はそれだけで一個体であり、触手も一本一本が一個体である。クラゲが酔っぱらうとクダクラゲになるわけではないのだ。
群体だとすると、中枢神経は一体どうなっているのだ、という疑問がわいてくる。中枢神経は子宮に移っている、という説もあるが、残念ながらカツオノエボシには子宮はないのである。これでは子宮防衛軍も出る膜が‥‥いや、出る幕がない。
中枢神経についてはよくわからないが、どうせ普通のクラゲだって大した中枢神経など持ち合わせていないのだ。気にすることはないだろう。
前置きが長くなったが、さて、懸案のつかまえ方である。
まず、カツオノエボシの生息場所だが、これは日本各地、どこにでもいるので大丈夫だ。「日本には群体は存在しない」などと言う人もいるが、そんなことはない。海に行ってちょっと探せば、すぐに発見できる。
発見してからは、慎重に行動しなければならない。刺されたら大変なので、後方からそっと近づいていく。十分に接近したら、隠し持っていた金属バットで後頭部を殴りつけて気絶させるのだ。すべての個体を気絶させないと逃げられてしまうので迅速な行動が必要である。これが終わればあとは簡単、網ですくって終わりである。もっとも、勢い余って群体のうちの何匹かを撲殺してしまったら、個体数を数えるときに「死んだヤツも一匹なのか?」と悩むかもしれないが。
え? つかまえたカツオノエボシはどうするのかって?
もちろん、海鮮マニアの某嬢のところに持っていくのだ。高値で買ってくれるだろう。この前も、カラオケで小泉今日子を熱唱していた。
「軟体だって〜、買〜い取〜る、ワタシは買い取る〜」