第159回   こたつ怪談  1997.12.2




 本格的な寒さが到来する前に、こたつを購入した。
 このところ金欠気味なので、新品を買う余裕はない。たまたま近所の中学校で開かれていたフリーマーケットで中古品を入手したのだ。
 中古とは言え、新品同様である。しかも、驚くほど安かった。
 買う前に一瞬、不安が頭をかすめる。中古車や中古バイクなどが異常に安い価格で売られていたら、それは事故で人を殺しているからだ、というのはよく聞く話である。だが私はその不安を頭から追い出した。まさかこたつが人を轢くわけじゃなし、気にすることはないだろう。
 しかし、それは大きな間違いだったのだ。

 その夜、私は買ったばかりのこたつに入りつつパソコンに向かっていた。
 テレホーダイタイムになるとさまざまなホームページを巡りつつ日記を読んだり伝言板に書き込んだりするのが日課になっている。暖かいこたつに入り、冷たいビールを飲みつつホームページ巡りをするのはとても快適だった。そして、私はいつの間にかこたつで眠ってしまったらしい……。
 ……何かが足に触れる感触がして目がさめた。猫? いや、猫など飼っていない。ゴキブリかとも思ったが、もっと大きいものだ。私は、こたつの中をのぞき込んだ。ヒーターの明かりがまるで血のように赤い。

 そいつが、そこにいた。
 皮膚はどす黒く、体はミイラのようにひからびている。やせこけた頬に、頭髪のほとんど残っていない頭。目だけが異様に大きい。
 それは、二才くらいの子供のミイラだった。ゆっくりと手を動かし、私の足をつかもうとしている。水気のない唇がかすかに動き、そのミイラはつぶやいていた。
「……あつい……あついよ……みず……」
 私は情けない悲鳴をあげるとこたつから飛び出した。そのまま布団に飛び込む。布団を頭からかぶり、一睡もできずに朝まで震えていた。

 夜が明けてみると、さっきの出来事は夢のような気がしてきた。
 布団から出ると、おそるおそるこたつの中をのぞき込む。……何もいなかった。一体、昨夜見た子供のミイラは何だったのだろう? 私は考えた。
 小さな子供がこたつの中で寝てしまい、脱水症状を起こす、という事故を聞いたことがある。もしかするとあれは、母親がパチンコにでも行っている間にこたつで寝てしまい、そのまま死んでしまった子供の幽霊なのかもしれない。新品同様のこたつが破格の値段で売られていたわけがわかったような気がした。

 当然ながらもうこのこたつを使う気はしなかった。
 捨てようか、とも考えたが、たたりが怖い。やはり、他人に押しつけるのが一番だろう。私は、ネット上で知り合った何人かの知人に「こたつを無料で譲ります」というメールを出した。「欲しい」という返事が返ってくるとすぐに、その知人あてに宅配便で送りつけた。
 それ以来、私の部屋には子供のミイラは出現しなくなった。一安心である。

 しかし、ひとつ気になることがある。
 私がこたつを送りつけた知人……その知人のホームページがそれ以来まったく更新されなくなったのだ。さりげなく近況を尋ねるメールを出してみたが、返事はない。
 私は、少し罪悪感を感じた。


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