第182回   しりとり大戦  1998.5.17





「あーあ、退屈やなあ。どうや、ここはひとつ、しりとりでもやってみよかと思うんやけど」
「どうしたんや、突然。しりとりなんかして、面白いんかい?」
「言っとくけどな、ただのしりとりちゃうで。ダジャレでしりとりをしよう、ということや」
「やめとこうや。やっぱりおもろないぞ」
「ぞ、やな。ええと、ぞ、ぞ……。『ゾンビがくるりと輪をかいた』ってのでどうかな?」
「なんや、もう始まっとるんかいな。しかし、それは盗作やで。オリジナルと違うてもええんか?」
「かまへんかまへん。ゲーテも言うとるやないか、『どんなに新しいオリジナルのネタを考えたと思っても、必ず先例がある』って」
「適当なこと言うて、なんか、売れないミステリ作家のいいわけみたいやな。ゲーテが言うわけあらへんやないか。ウソやろ、ウソ」
「それより、おまえの番やで。『ゾンビがくるりと輪をかいた』の『た』や」
「やっぱりやるんか。しゃあないなあ。えーと、た、た……。『頼りのないのは飯田より』ってのはどうや。つまり、飯田という頼りないヤツがおって、そいつより頼りないくらいやからものすごく頼りないやろ、という」
「うーん、解説が必要なダジャレってのもなあ。まあええわ。り、やな。えーと、り、か……」
「簡単簡単。『律儀者のコダックさん』でどうや?」
「やめんか、アホ。それ言うたらオレの負けやないか。えーと、『利息三文』……あ、これもあかんか。……よし、『リンボー暇なし』でいこう」
「うーん、それ、面白くない……」
「いちいちうるさいヤツやなあ。面白さよりも、しりとりを続けることを優先しとるんやで」
「でもなあ、しりとりを続けて、なおかつ面白いダジャレを考えんと、プロとは言えんなあ」
「あっ、おまえ、馬鹿にしとるな? それほど言うんやったら、おまえがやってみろや。次は、し、やで、し」
「仕方ない、それでは、私がお手本を見せてあげましょう。『市街戦からお肌を守る防弾チョッキ』」
「聞いたことあるで、それも」
「もちろん、そうでしょう。今、インドネシアで流行してますからな」
「なんやそれ、面白いというよりヤバいネタやんか」
「感心してないで、次はきみの番だ」
「誰が感心しとるかいな。だいたい、なんで急に標準語になるねん。ぶつぶつ……」
「次のダジャレを言いなさいよ、早く」
「くそお、負けへんで。ええと……よし、『キラー・カーンの波と雲の波♪』」
「♪? 音符かいな。音符で始まるダジャレと言えば……『音符おばけ』やな」
「なんだか反則っぽいなあ、それ。では、『喧嘩両生類』で、どうや?」
「やるやないか。ならば……。『一に独身、二に未婚、妻子がなくて五に涙』しくしくしく……」
「くううううっ、泣くな! 泣けばオレまで悲しくなるさ!」
「さて、次いこ」
「こら! ウソ泣きやったんかい!」
「いっつもダマされるなあ、おまえは。……しかし、このしりとり、終わりそうにないなあ」
「あはは、確かにそうや。ところでおまえ、気付いとったか? オレらの会話も、ちゃんとしりとりになっとるんやで」
「でたらめ言うたらあかんわ。そんなこと……って、ひょっとしてほんまかいな?」
「……なんて言ったら、信用して読み返す人がおるかもしれんなあ。って、ちょっと思っただけやねん」
「ん? やっぱりウソかいな。なんや、つまらん」


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