第204回   雨と天気と男と女  1998.8.30





 雨だ。
 ここ大阪では今日は降っていないが、北日本の方では大水害になっているらしい。こういった自然の驚異を目にするにつれ、つくづく人間の無力さを思い知らされるようだ。しかし、古来伝えられる伝説では、天候を左右する能力を持った人間が存在するという。そう、雨女とか雨男とか呼ばれる者たちである。

 雨女とは、その人の行くところ必ず雨が降るという女性のことだ。
「ああもう、せっかく楽しみにしていた海水浴だったのに」
「どうしてこういう時に限って、雨が降るかなあ」
「京子と一緒に来たら、いつも雨だもん」
「ホントにあんたって、雨女ねえ」
「ごめんなさーい。しくしくしく」
 ……とまあ、こんな具合だ。雨男も同様である。
 さらに世間には晴れ女とか晴れ男と呼ばれる者たちも存在し、これらの人々が各地を移動することにより異常気象や天候不順が引き起こされるという説もあるが、さすがにそんなことはないだろう。

 で、問題はここからである。天候の中で、雨や晴れについてはいいのだが、これが雪になるとちょっと事情が変わってくる。
 雪女といえば、こうだ。
「ああもう、せっかく楽しみにしていた海水浴だったのに」
「どうしてこういう時に限って、雪が降るかなあ」
「京子と一緒に来たら、いつも雪だもん」
「ホントにあんたって、雪女ねえ」
「ごめんなさーい。しくしくしく」
 ところが雪男といえば、雪を降らせる男のことではなく、ヒマラヤ山中に住む未確認動物のことである。これはいったいどういうことか。だいたい雪男も動物、それも哺乳類である以上オスとメスがいるはずだが、メスの方はどうなっているのだ。納得できない話である。
 似たようなものに、人魚がある。人魚といえば上半身は女性、しかも美人と決まっている。男の人魚の話など聞いたことがない。だいたい人魚も動物、それも哺乳類……かどうかはわからないなあ。半分魚だし。そもそも人魚は胎生か卵生か。下半身が魚だからやはり卵生であろうか。すると、鮭などと同様にまずメスの人魚が水中に大量の卵を放出し、その卵めがけて今度はオスの人魚が精子を放出する……ううむ、あまり考えたくはない話である。……ええと、話がそれたが、とにかく人魚のオスというのは聞いたことがない。
 あっ、ひょっとして、昔私の家にあった人魚の木乃伊、あれがオスだったのかも。

 他にも、女と男で意味が微妙に違うという例に、狼少女と狼少年がある。
 狼少女といえば狼に育てられた少女のことだ。で、狼少年といえば、もちろんそういう意味もあるのだが、狼が来るぞと嘘をついて大人を騙した少年、という意味も加わる。しかし狼女と狼男にはそういう意味の違いがないのが不思議なところである。
 娘と息子についても同様の例はいろいろとある。○○娘と○○息子と言って、違和感のないのは孝行娘・孝行息子くらいだろう。箱入り娘というのはあるが箱入り息子というのは聞かない。ドラ息子というのはあるがドラ娘というのは聞かない。なんだか猫娘のようである。そういえば、猫息子というのも聞かないなあ。
 また、モーニング娘。というのはあるが、モーニング息子。というのは聞かない。モーニング息子といえば、やはり、朝になると息子が……いかんいかん、下ネタになってしまった。
 さらに、歌もいろいろある。「森へ行きましょう息子さん」ではなんだかアブナい歌のようだし、「息子さんよく聞けよ、山男にゃ惚れるなよ」でもなんだかアブナい歌のようだ。「あの子かわいや宦官娘」という歌はあるが、「あの子かわいや宦官息子」という歌はない。なぜかというと、やはり宦官になるためには息子を切……いかんいかん、また下ネタになってしまった。




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