第276回 クラシック・パーク 1999.9.12
クラシック・パークは倉敷にある。
倉敷駅に降り立つとすぐ眼前に観覧車がそびえる遊園地があるが、そこは残念ながらクラシック・パークではない。倉敷チボリ公園だ。だまされてはいけない。
とはいえ、だまされる人などほとんどいないだろう。クラシック・パークは倉敷チボリ公園の十倍の敷地を持ち、アトラクションの数も半端ではない。まさに両者は月とスッポン、提灯と釣り鐘、猫と小判、豚と真珠、二階と目薬、牛と善光寺、弘法と猿、酒と泪と男と女くらい違うのだ。
遊園地の人気マシンといえばやはりジェットコースターである。このクラシック・パークも例外ではない。
世界最長と名高いジェットコースター『ノルマンディー』は全長15キロメートル、最頂部150メートルの高さから一気に急降下すると、まず待ち受けるのは高さ50メートルのバーチカルループ、その後は水平スパイラル軌道を突き抜けるインターロックループ、さらにコブラロールとフラットスピンを経由してゼロGロールからリバースシフト、さらにコークスクリューブローにハリケーンボルト、スカイ・トリプル・ダンシングまで、書いていても何が何だかよくわからないが、とにかくすごいジェットコースターなのだ。
そのせいか、ここはいつ行っても長蛇の列である。開園以来一度も途切れたことがないとも噂されるその行列は延々500メートルは続いている。列の中ほどの家族連れにちょっと聞いてみると、こんな答が返ってきた。
「いつからお並びですか?」
「ええと、慶応三年に初代の猪熊虎五郎が並んだのが始まりです」
「すると、あなたは?」
「私が五代目虎五郎です。妻とはこの行列の途中で知り合って結婚しました」
「それは大変ですねえ」
「ええ、この子が生まれたときなど、後ろの人たちから『割り込むな』『人数を増やすな』と、えらく叱られましてねえ。でも、それも今となってはいい思い出です」
「あとどれくらいで乗れるでしょうか」
「そうですねえ、私の孫の代くらいには何とか……」
「がんばってください」
しかし、この話はちょっと疑わしい。
さらにこのクラシック・パークは、絶叫系のマシンも充実している。
ワイヤーに吊り下げられて高さ50メートルまで持ち上げられ、そこでぐるぐると振り回される『ムロフシ』は今までに無数の失神者を出している危険なマシンだし、小さなたらい船に乗って荒れ狂う激流を上ったり下ったりする『ポロロッカ』もスリリングだ。さらに高さ99メートルのタワーから一気に落下する『パルサタラティー・ヴィマーナ』は自由落下より速いと評判である。乗り終えて出てきた人たちにちょっと聞いてみると、こんな答が返ってきた。
「どうでしたか、このマシンは?」
「いや、恐ろしい。脳のシナプスが三千本ほど切れました」
「私は胃下垂が治りました」
「脱腸が治りました」
「5キロやせました」
「え? 今は1999年? 乗る前は、確かに2002年だったのに……」
この話も、ちょっと疑わしい。
絶叫系のマシンが苦手な人には、ほのぼのマシンがいいだろう。
日本で最初に設置された軌道観覧車『くちぐるま号』をはじめ、巡航船に乗ってインドネシアのジャングルをのんびりと航海する『イースト・ティモール』、イギリスから本物の幽霊屋敷を移設して改造したおばけやしき『ロンドン・タワー』、回っているうちにいつの間にかカップの数が増加するコーヒーカップ『ロイヤル・コペンハーゲン』、そして小さな子供たちのためにはけっこう仮面のモノレールやエヴァンゲリオンのメリーゴーラウンドもある。
そして、動物ふれあいコーナーも大人気だ。
サバンナエリアではブチハイエナやイボイノシシやハダカデバネズミ、ジャングルエリアではタスマニアデビルやグリーンイグアナやフキダラソウモン、アマゾンエリアではヨウスコウワニやアナコンダやキングピラニアが放し飼いにされており、子供たちが自由に触って遊ぶことができる。さらにマリンワールドで毎週日曜日に見ることができるマッコウクジラとダイオウイカの決闘は圧巻である。
動物ふれあいコーナーで遊んでいる子供たちの声を聞いてみよう。
「えーんえーん」
「怖いよ怖いよお、ママ助けて」
「いやだよお、もう帰りたいよお。ぐすん」
「痛いよお、痛いよお、血が出てきたよお」
「噛まれちゃったよお。なんだか手足がしびれてきたよお」
なかなか楽しそうである。
このように見どころが山ほどあるクラシック・パーク、とても一日で回り切れるものではない。近くのホテルに滞在し、二泊三日くらいかけてじっくりと堪能すべきだろう。それだけの価値は十分にある。
ところで、やはりこのクラシック・パークは、地元では『くらパー』と呼ばれているのだろうか。
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