第277回   天使の憂鬱  1999.9.20





 そう、問題は「天使のブラ」なのだ。

 最近なぜかあちこちで耳にする言葉だが、この「天使のブラ」というもの、正体がさっぱりわからない。いや、さすがの私でも天使の方はわかるのだが、ブラの方がわからないのだ。ブラというのは一体何なのだろう。何かの略だろうか。ちょっと考えてみよう。
 天使のブラックホール。宇宙船で突っ込んでも、にっこり笑ってホワイトホールから脱出できそうである。天使のブライアント。泣いて頼めばホームランを三塁打にしてくれそうである。天使のブラジル。ああ、あの山の上で手を広げて立っている像か。それはキリストだってば。天使のブラウン運動。そう、針の先で何人もダンスを踊れるくらい小さな天使なら、ブラウン運動くらいしそうである。天使のブラウンシュヴァイク公。誰だよそれは。天使のブラインドタッチ。あまり速くなさそうである。天使のブラウザ。少なくとも、インターネットエクスプローラのことではない。天使のブラックデビル。ううむ、なんだか矛盾しているような。天使のブラジャー。あっそれ、なんだかいいぞ。
 というわけで、天使のブラは天使のブラジャーの略だと決定した。決定したのであるから異議を唱えても無駄だ。青島幸男ではなく私が決めたのだ。うむ、苦しゅうない。

 しかし、よく考えたら事態はほとんど進展していない。天使のブラジャーというのがどんなものか、全然わからないではないか。苦しゅうないブラジャーのことか。違うだろうなあ。よし、ちょっと考えてみよう。
 そういえば、『ドラゴンクエスト』に天使のレオタードという防具が出てきた。着ればかっこよさがアップするという優れものだ。天使のブラもこれと似たようなものだろうか。さらに姉妹品として天使のハイヒールと天使の羽根仮面がある。武器はもちろん、天使のムチ。ううむ、ちょっと違うような。
 するとやはりアレか。ブラを池に投げ込むと天使が出てきて、あなたが落としたのはこの金のブラですか銀のブラですか普通のブラですか。サトウのブラをお願いします。これも違うな。三蔵法師がお経を唱えるとブラがどんどんしまっていく。これも違うな。かぐや姫と結婚するためには天使のブラを探し出すこと。これも違うな。十二時の鐘が鳴ってシンデレラがお城の階段を駆け下りると、途中で脱げた天使のブラが残っていた。これも違うな。屋根裏部屋で古ぼけた天使のブラを発見した姫、まあきれいと叫んで思わず着てみると中に仕掛けてあった針に刺されて長い長い眠りに。これも違うな。この天使のブラは、馬鹿には見えないのです。ああ、私も馬鹿になりたい。

 まあいい。とりあえずは天使のブラがどんなものであろうと、あまり関係ない。それよりも問題なのは、なぜ女性はブラを付けたがるのか、ということだ。
 考えてみたまえ。動物たちは皆、ブラなどという不自然なものは付けていない。付けないのが自然な状態なのだ。ブラを付けることは、堕落した近代文明の弊害である。ブラをはずせ、町へ出よう。自然の賛歌を感じるのだ。それでこそ、躍動感に満ちあふれた生命の息吹を感じることができるのである。ノーブラはみんな生きている〜。
 しかし、町を歩いていてもなかなかノーブラの女性には巡り会えない。そんなときは、探偵団でも結成して徹底的に捜索するしかないだろう。ノ、ノ、ノーブラは少年探偵団。
 そして捜索の甲斐あって、ようやくノーブラの有名人を捜し当てることができた。そう、ノーブラ沙知代である。ううむ、あまりありがたくないような。




第276回へ / 第277回 / 第278回へ

 目次へ戻る