第279回   それがあなたの台所  1999.9.27





 台所は面白い。いろいろと興味深い大道具小道具に満ちているからだ。実によく考えついたと感心するようなものから、何の役に立つのかわからない不思議なものまで、さまざまなアイテムが転がっている台所はまさにワンダーランド。今日はそんな話である。
 だが、とりあえずはマクラとして宇宙人の話から始めよう。

 最近よく地球へやってきている宇宙人といえば、もっぱらリトルグレイに限られるようだ。
 リトルグレイというのはその名のとおり小さくて灰色の宇宙人で、頭が大きく目が大きく口が小さく、それに対して体は小さくて華奢である。要は、映画『未知との遭遇』に登場した宇宙人だ。この映画以来、リトルグレイといえば宇宙人の代名詞になってしまった。いや代名詞じゃなくて名詞か。まあそれはどうでもいいが、昔はもっとバラエティに富んだ宇宙人が地球にやってきていたのに、残念なことである。
 昔の『宇宙人大図鑑』などを見ていると、実に多彩な宇宙人がいることに驚かされる。地球人に捕らえられてCIAの職員に両手をつかまれながら写真に写っている小人型の宇宙人や身長三メートルあまりで光背のようなものを背負い両手を不気味に前に突きだして目をらんらんと輝かしている宇宙人は有名だが、他にもフロッグ・モンスターと呼ばれるカエル型の宇宙人、モスマンと呼ばれる巨大な蛾のような宇宙人、妖精のような姿で頭のてっぺんから光線を出す宇宙人やアイロン型の宇宙人、ブーメラン型宇宙人やしゃもじ型宇宙人なども存在する。
 しかし、妖精型はともかくとして、どうしてこう地球にやってくる宇宙人たちはグロテスクなやつらばかりなのだろう。たまには、もっと見ていて楽しい、かわいい動物型の宇宙人などがやってこないものだろうか。
 たとえば、ラッコ型宇宙人というのはどうだろう。なかなかかわいくて人気者になるかもしれない。しかしこのラッコ型宇宙人、外見に似合わず狂暴な性格なのだ。夜道、電柱の影に隠れていて人が通りかかると持っていた石で頭をガツンと殴りつけるのである。その他にも、池やプールでのんびりおひるねをしているふりをして、わあかわいいなどと言って近寄ってきた子供たちも犠牲になる。恐ろしいことである。……って、そのネタ何回使えば気が済むんだ。

 いかんいかん、ついついマクラが長くなった。「しゃもじ型宇宙人云々」のところでちょっと近づきかけたが、また遠ざかってしまったではないか。早く台所の話に戻らねば。

 で、宇宙人といえば、有名なのはバルタン星人である。過去何度も地球を侵略しにやってきて、惜しくも敗れ去ってきた宇宙人だ。
 ところで、そのバルタン星人の姿を見て違和感を感じることはないだろうか。そう、何といっても目立つのは、両手に付いている巨大なハサミである。あれにはやはり、違和感を感じざるを得ない。考えてみてほしい、両手があのようにハサミになっていれば、細かい作業をすることなど不可能である。鉛筆も持てなければキーボードも打てない、針に糸も通せなければリンゴの皮もむけない、魚もさばけなければ火打ち石も打てない、ブラジャーもはずせなければジャンケンもできない、このような不自由な手で、地球を侵略しに来るほど高度な文明を築き上げることは可能だろうか。
 いやいや、そのように人を外見で判断してはいけない。バルタン星人のハサミのような手、あれは実は本物の手ではないのだ。鍋つかみをはめているだけなのである。このバルタン星の鍋つかみは地球のものよりはるかに出来がよく、抗菌防臭加工はもちろんのこと耐熱耐寒耐放射能性に優れている。太陽表面のような過酷な環境でも楽々鍋がつかめるという逸品なのだ。
 このように、鍋つかみ一つを取ってみてもバルタン星と地球の技術力には雲泥の差がある。おまけに、やってきたバルタン星人は二十億人もいるのだ。二十人を置くのではなくて二十億人である。まともに戦えばとても勝ち目はなかっただろう。たまたまウルトラマンが地球に滞在していたのは不幸中の幸いと言うべきだろう。我々は、もっとウルトラマンに感謝しなければならない。砂漠の真ん中の町に巨大な石像を立てたくらいではまだまだ不十分である。

 いかんいかん、またまたマクラが長くなった。「リンゴの皮もむけない云々」や「鍋つかみ云々」のところでちょっと近づきかけたが、また遠ざかってしまったではないか。どうしてこう、話がそれていくのだろうか。
 仕方がない、もう台所の話をするのはあきらめよう。このまま素直に宇宙人の話にしてしまえばいいのだ。

 宇宙人といえば、はるか彼方の星からはるばる地球までやってくるわけで、その苦労は大変なものである。何が大変かといえば、やはり無重力だろう。まあ、地球までやってくるほどの技術力を持っているのだから人工重力装置くらい開発しているのかもしれないが、とりあえずそれは我々地球人には無縁の技術だ。我々は、スペースシャトルの中でもミールの中でも、無重力状態に耐えねばならない。
 無重力というのは大変だ。なにしろ重力がないのだから、日常生活にいろいろと不都合なことが起こる。たとえばベッドに寝ていても、寝相が悪いという程度の話では済まないのだ。目を開けたら体が天井にへばりついてベッドを見下ろしていたとか、眼下には夜の町並みがあってものすごいスピードで空を飛んでいるとか、ほとんど幽体離脱である。その他、トイレにも苦労するし歯磨きにも苦労する。シャンプーもできなければカレーも作れないのだ。
 カレーが作れないのはなぜかというと、鍋を火にかけてもうまく煮えないからである。無重力状態では対流が起こらないため、煮え方にむらが出てしまうのである。圧力鍋ならぬ重力鍋が欲しいところだ。
 もっとも、鍋で煮込む段階にたどりつくまでがまた一苦労である。ジャガイモの皮むきなどにも手間がかかる。私も昔は包丁を使ってむいていたものだが、これは面倒くさいし指を切りそうで怖い。最近は専用のじゃがいも皮むき器を使っているのでかなり楽になったが。
 そういえば、先日ダイエーの家庭用品売場でカボチャの皮むき器というものを売っているのを見た。形はジャガイモ皮むき器と同じで、1.5倍ほどに大きくしただけのものだ。なるほど、この皮むき器というのはそれだけ普遍的なデザインで、大きさを変えるだけでいかようにも応用可能なわけだな、と感心した次第である。
 あと、玉子関連のグッズにも面白いものがある。玉子と同じ熱伝導率の半透明のプラスチック製で熱を加えるとどんどん色が変わっていき、玉子と一緒にゆでればその色の変わり具合を基準にして半熟も固ゆでも思いのままというダミー玉子。ゆで玉子を星形に切るエッグカッター。黄身と白身を分離させるエッグセパレーター。生玉子とゆで玉子を見分ける簡易判別器。最新の光学処理技術と重量センサーによりニワトリの玉子とウズラの玉子を見分ける高性能判別機。玉子のオスとメスを見分ける大仏の首。などである。
 本当に、いくら見ていても飽きないほどさまざまなアイテムがある。こんな道具を揃えれば、さぞや台所も楽しくなるだろう。まさにワンダーランドである。

 いかんいかん、なぜか台所の話になってしまった。どうしてこう、話がずれていくのだろうか。なかなか思ったとおりのことが書けないのだ。困ったものである。まったく、雑文を書くのはむずかしい。




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