第301回 足の上にも怨念 2000.2.27
人間の足の長さというのは千差万別で、長い足短い足さまざまである。一般的には足は長い方がいいと思われているようだが、はたして本当にそうだろうか。かつてリンカーンが、このように語ったことがある。
ある新聞記者が、アブラハム・リンカーンに尋ねた。
「人間の足は、どれくらい長くあるべきでしょうか?」
リンカーンは、退屈そうな声でこう答えた。
「地面に届くくらいに長いこと」
……などと、アヤしげな逸話の引用から始めたりするわけだが、このアブラハムという名前、なんとなく美味しそうである。フライパンの上でジュージュー音をたてながら焼けている脂身たっぷりのボンレスハム。ううむしかし、美味しそうではあるがコレステロールが高そうだなあ。
考えてみれば、なんとなく美味しそうに聞こえる名前というのはけっこうあるものだ。リンゴ・スターやミック・ジャガーは古典としても、その他思いつくのはワインバーガー国務長官やサマランチ会長あたりだろうか。日本人なら壺井栄。なんとなく字面が栄螺の壺焼きを連想するし、安西水丸も水菓子を思わせる。佃公彦、というのも美味しそうだ。さらにたけし軍団のつまみ枝豆や井手らっきょ、まあこの辺は実際にその顔を思い浮かべると食欲がなくなりそうではあるが。おっと、忘れちゃいけないそのまんま東。どのまんまだ?
ええと、なんだかいきなり話がそれているなあ。こんな話をするはずではなかったのだが。まあいい、せっかくだからこのまま続けよう。
美味しそうな食べ物を連想させる人名がある一方で、食べ物の名前なのにあまり美味しそうでない連想のはたらくものもある。たとえばババロアだ。ついつい魔法使いの老婆を連想してしまうのだ。また、ムニエルなどは昔ヤクルトにいた野球選手を連想させるし、アルファルファからは筒井康隆を連想してしまう。って、それはずいぶん古いぞ。今ならパプリカか。まあそれも、あまり新しいとは言えないが。
それからチンゲンサイ。……ええと、これは省略。そしてさらにズッキーニに至っては、なぜかセーラームーンを連想してしまうのだ。ズッキーニ代わって、おしおきよ♪
そういえばたけし軍団には、なぜか台所関係の名前が多いようだ。食べ物の例はすでに挙げたが、その他にもなべやかん、ラッシャー板前などが台所関係である。後者はついつい、板前さんが「らっしゃーい!」と叫んでいる姿を連想してしまう。
それから松尾伴内。これは、ええと、その、つまり、そうそう、この名前の元ネタは七つの顔を持つ男・多羅尾伴内である。タラバガニを連想させるではないか。よし、OK。なんとか台所関係に持っていけたぞ。
主旨が違ってきているような気がするが、まあいい、あとたけし軍団で残っているのは誰だ? グレート義太夫。ううむ、これはちょっとむずかしいぞ。グレートと言えば、グレートマジンガー。原作者は永井豪。永井豪のあだ名は冷や奴。よし、OK。
次は……ガダルカナル・タカ。ガダルカナル、という名前も韻を踏んでいてなかなかきれいではある、はるかなるガダルカナル。これはまあ、タカだから鷹の爪でいいや。
ええとそれから、確かもう一人、影の薄いのがいたはずだが。そうそう、柳ユーレイだ。昔から、柳の下に二匹幽霊はいない、と言われているが、やはり幽霊一人につき柳一本がなわばりなのだろう。なわばりをおかす者は容赦なく攻撃されるのだ。しかし、幽霊の攻撃といっても大した威力はなさそうだ。パンチを繰り出しても破壊力に欠けるだろう。人間には対抗できそうにない。なにしろ、地に足がついていないのだから。
あっそうか、リンカーンが言いたかったことはこれか!
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