第313回 むずかしの名前で出ています 2000.6.4
世の中に迷惑なものは数あれど、その最たるものはやはり暴走族ではないだろうか。
人の寝静まった夜中にけたたましい音をたてて走り回る。道いっぱいに広がって走って交通を妨害する。ガードレールなどの公共物を破壊する。壁に落書きをする。信号無視をする。歯を磨かずに寝る。チェーンメールを流す。幼稚園バスを襲う。貯水池に毒を投げ込む。まさに悪の限りを尽くしている。暴走族よ、お前たちは社会のガンだ。……いや、そうはっきり宣告してしまってはショックを受けるか。言い直そう。暴走族よ、お前たちは社会の胃潰瘍だ。
それはともかくとして、暴走族の名前にはかなりマヌケなものが多い。無理してむずかしい漢字を使って失敗しているのだ。勉強などしていないであろう彼らがそれほどむずかしい漢字を知っているわけがないので、おそらく漢和辞典などを引きながらなるべくかっこよさそうな漢字を選んだつもりなのだろうが、まあそもそもダサい服を着てダサい改造車に乗っている彼らにそれほどセンスがあるわけはない。結果的に妙に笑えるものになってしまっているのだ。
たとえば、『1999年度版関東暴走連合会員名簿』をつらつらながめてみると、こんなものがある。
『怒羅絵門』。ほら、いきなりこれだ。やっぱり、のび太のような少年がリーダーをやっているのだろうか。サブリーダーはジャイアンのような少年だろうか。いつもリーダーはいじめられているのだろうか。かわいそうに。
『神出麗羅』。しんしゅつ……いや、これはおそらくシンデレラと読むのだろう。なぜこんな名前にしたのかといえば、リーダーの家の門限が厳しくて十二時までには帰らないといけないのだ。門限を破るとママに叱られてしまうのである。これもけっこう情けない。
『魅孵美人』。なんと読むのかちょっと悩んだが、おそらく「みかえりびじん」だろう。しかし、こんなにむずかしい漢字を使って大丈夫なのか? 覚えられるメンバーなどいないだろうから、壁に落書きするためにいちいち国語辞典を持ち歩かねばならない。ご苦労なことである。
しかしなぜ見返り美人なのか? 暴走族にそうそう美人などいるわけがないから、これはメンバーのことではないだろう。初代リーダーが走っているときにたまたま歩道を歩いていた美人が目についた。見とれてよそ見をしていると対向車線に飛び出してしまいトラックと正面衝突……そんなエピソードがあったのだ。悲惨な話である。え? そのリーダーはどうしたって? 安心してほしい、死んではいない。救急車が来るまで付き添ってくれたその美人と結婚し、今は自動車整備工として平和に暮らしているとのことだ。ええ話やなあ。
『奇面党』。もちろん、必殺技は奇面フラッシュである。この技をくらって崩壊した暴走族は数知れず、ある意味で関東最強の族であろう。
『烈火亜舎』。初代リーダーが駐車違反でレッカー移動をくらったことからこの名前が付いた。
『寿辺苦絶悪』。読めない。これは絶対に読めない。スペクターと正しく読める者など、メンバー以外にいないだろう。
『男邪流丸』。やはりリーダーは元公家でおじゃるか。困ったものでおじゃる。
『退我亜須』。だから、そんな弱そうな名前を付けちゃダメだって。
『銀輪部隊』。銀輪部隊といえば、旧日本軍の自転車に乗った部隊のことだが、知っていて付けたのだろうか。それとも本当に自転車に乗っているのか。自転車で他の暴走族と渡り合っているのなら大したものである。
『惨臨舎』。ならばこれは当然、三輪車で他の暴走族と渡り合っているのだろう。
『補陀落連合』。そうか、私が創設したチームが今でも続いていたのか。懐かしい。……ではなくて、ううむ、こんな名前を付けられると迷惑だなあ。
『ゲイツの騎士』。こんなところにまでビル・ゲイツの魔手が伸びていたとは。マッキントッシュを使っている暴走族を標的に襲撃をくり返しているらしい。恐ろしいことである。
『シャア専用』。やはり、普通のバイクの三倍のスピードで……。
『矢男異同盟』。男ばかりの暴走族。しかし残念ながらメンバー間の恋愛は御法度である。ううむ、これもある意味で関東最強かもしれない。
『セメダインズ』。お前らは漫才師か。
『暴走族』。って、そのままやないか。もっとヒネりなさいっ。
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