第314回   ベッドでわしも考えた  2000.6.18





 今日もまた布団にくるまりながら、つらつらと考える。
 春眠暁を覚えずとは言うが、春が過ぎて梅雨になっても眠いのはどういうわけか。人生の三分の一は布団の中、などというが、今日はすでに一日の二分の一以上布団の中にいるのではないのか。こんな怠惰な生活をおくっていていいものか。少しは外に出てスポーツでもやってみたらどうか。いい若い者が、昼間からごろごろしていていいのだろうか。
 いいのだ。いいのである。なぜいいのかというと、ええと、そうだな……。

 運動をすると体内に大量の酸素を取り込むことになる。この酸素が問題なのだ。酸素を大量に摂取すると老化が早まるのである。酸素は毒である。特に危険なのが、活性酸素と呼ばれるイオン化した酸素分子だ。
 このイオン化した酸素は、体内であらゆる物質と結びつき、相手を傷つけるのである。細胞膜だろうがDNAだろうが、どんどん破壊して回るのである。しかもこの活性酸素は、体内で酸素が燃焼反応を起こして水になる過程で必ず生成されてしまう。困ったものである。
 東大理学部の加藤邦彦助手が、酸素の摂取量と老化に関する実験をおこなったことがある。それによると、酸素濃度を通常の値(約20%)から50%へ増やした人工の大気の中でネズミやショウジョウバエを飼うと、その寿命は半減するという。さらに100%の酸素の中では平均寿命が三年半のネズミがたった一週間しか生きられないのだ。恐ろしいことである。
 そういうわけで酸素は危険なのだ。そんな危険なものを体内に取り込んではいけない。
 とはいえ、酸素がなければ我々は生きてはいけない。人はパンのみにて生きるにあらず。生きていくためには、パンの他にも酸素が必要なのである。我々は、みすみす寿命を縮めるとわかっていても、酸素を吸わないわけにはいかないのだ。麻薬のようなものである。ならば我々の取る行動はただ一つ。できるだけ酸素を摂取しないように、運動などせずにごろごろと過ごせばいいのだ。

 でもしかし、やはり少しは運動をした方が体にはいいような気が……いやいや、やはりそれは気のせいである。
 野生動物を見るがいい。彼らが日々トレーニングなどをしているか。ライオンが毎朝ジョギングをしているか。トラが毎日エアロビクスで汗を流しているか。ヒョウが毎日ウエイトトレーニングなどをしているか。ピューマが毎日千本ノックなどを受けているか。レオポンが毎日オフサイドトラップの練習などしているか。チーターが毎日三歩進んで二歩下がっているか。そんなことはしていない。彼らは、狩りをするとき以外はだらだらと昼寝をしているだけだ。そうやって、なるべく酸素の摂取量を減らそうとしているのだろう。まさに野生の知恵、我々も見習わなければならない。

 そういうわけで、休日になったらこうやって布団にくるまってごろごろしているのが正しいのである。余計な運動などしてはいけない。してもいい運動といえば、やはりそれはベッドの上での……あ、いやいや、とにかくおやすみなさい。グウ……。




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