第326回   新世紀紅しょうが伝説  2001.1.8





「はいどうも、セメダインズです」
「みなさま、あけましておめでとうございます」
「おめでとうって、きみ、もう今日は1月8日やないか」
「仕方ないでしょう、今日がわれわれの初仕事なんですから。というわけで、あけましておめでとうございます」
「なんや情けないなあ。お正月言うたら芸人にとってはかきいれ時やないか。それが、8日が初仕事やなんて、ほんま情けない」
「いやいや、もっと情けないことがありますよ」
「えっ、何や?」
「実は、これが今年の仕事納めです」
「こらこらっ、何を言うてんねん」
「まあわれわれの場合、十分あり得ますからねえ」
「だからやめなさいって。これからがんばって行かなあかんねんから」
「そうですねえ。がんばるためにはやっぱり、うまいもの食べてスタミナつけないとあきませんね」
「そうそう、たとえば牛丼とか」
「牛丼ってあなた、もっと高いもの食べなさい。焼肉とかステーキとか鍋焼きうどんとか」
「ええやないか牛丼で。早くてうまくて安くて元気つくやないか」
「まあ、あなたの稼ぎではその程度が限界でしょうが」
「こらこら、稼ぎは一緒やないか。コンビなんやから」
「そうそう、牛丼と言えば、恐ろしい話があるの知ってますか」
「えっ、何や何や」
「あの、テーブルの上に置いてある紅しょうが」
「ああ、あるなあ紅しょうが。あれはタダやからいつもぎょうさん取ったるねん」
「その紅しょうがですけど、補充しているところを見たことありますか」
「補充? ああ、そういえば、上からつぎ足しとったなあ」
「そこです!」
「えっ、どこやどこや」
「底なんです。上からつぎ足して、客も上から取る。すると、底の方の紅しょうがはいつまでたってもそのままです」
「ああ、考えてみればそうやなあ」
「開店以来牛丼一筋八十年間、その間、底の方の紅しょうがは誰にも食べられることなく静かに地球最後の日を待っている……なんとも恐ろしい話じゃないですか」
「ううむ、そうか? あんまり恐ろしくないで」
「そうですか。じゃあ、こんな話はどうでしょう。あの紅しょうが、原料は何だと思います?」
「原料って……そりゃあ、しょうがやろが」
「いえいえ、そう思うのが素人のあかさたな。実は、私の友達の友達が牛丼屋でバイトしていたことがありまして。見てしまったのです」
「何を?」
「あの紅しょうが、実は原料は、ミミズの肉だったのです」
「こらこら。何を言うてんねん」
「友達の友達は、『このことは絶対に他人に言わないように』と言われ、口止め料に一万円もらったそうです」
「そやったら、君がここで喋ったらあかんやないか。その話もなんや眉唾やなあ。たいして怖ないで」
「ううむ、そうですか。なら、こんな話はどうでしょう。あの紅しょうがを食べるとインポになるのです」
「おいおい、ほんまかそれは」
「本当です。GHQの陰謀なのです」
「ほんまかいな。どうも信じられへんなあ」
「では次の話。これは、私の友達の友達が小学生の時の話ですが、ある日、学校のトイレに入っていたそうです。用を足して、さて出ようかとふと見るとトイレットペーパーがない」
「それ、紅しょうがに関係あるんか?」
「困っていたら、どこからともなく声が聞こえました。『赤い紅しょうががいいか、青い紅しょうががいいか?』」
「青い紅しょうがって、きみ……」
「松田聖子が歌ってましたね」
「それは『青い珊瑚礁』やろが」
「そうそう、珊瑚礁で思い出しました。これも、私の友達の友達が子供の時の話ですが、ある日、海に海水浴に行ったそうです。浜辺の露店で売っていた焼きそばを食べながら歩いているとつまづいて転んでしまい、膝のところに怪我をしてしまいました。持っていた焼きそばが散らばり、傷口のところには紅しょうががへばりついてました」
「ほうほう、それで?」
「そのまま家に帰ってきたのですが、数日すると膝が痛み始めました。痛みはだんだんひどくなり、ついに医者に行って切開手術をしてみると、膝の皿の裏には紅しょうががびっしり……」
「う、うむ、それはちょっと怖いかな」
「では次の話。『むらさき紅しょうが』という言葉を二十才まで覚えていると死ぬそうです」
「なんやそれ、意味わからへんで」
「それがこの話の恐ろしいところで。で、次の話。私の友達の友達が」
「なんや、友達の友達ばっかりやな」
「海外旅行でパリに行ったとき、ふと目についた牛丼屋に入りました」
「パリに牛丼屋があるんかいな」
「ありますあります。今や全世界にあります。インドにも南極大陸にも火星の牛丼岩の隣にもあります。で、そのパリの牛丼屋で、紅しょうがを食べるために試食室に入ったのですが、いつまでたっても出てこない。そのまま行方不明になってしまいました」
「なんか無理あるでその話は。試食室って……」
「では、大学の医学部でひそかに募集されているという、紅しょうが洗いのアルバイトは……」
「あらへん、あらへん」
「では、電子レンジで紅しょうがをチンした話……」
「それは普通やないか」
「ピアスを付けようと耳たぶに穴をあけたら、そこから紅しょうがが……」
「出るかいな、そんなもん」
「箱の中に一個だけ、眉毛の付いた紅しょうががあって、それを食べると幸せになれると言う……」
「言わへん、言わへん」
「深夜の街に出没する、怪人紅しょうがマント。今までにたくさんの子供たちがさわられました。いや、さらわれました」
「紅しょうがマントって、きみ」
「さらわれた子供はサーカスに売り飛ばされ、そこでは体を柔らかくするために毎日紅しょうがを食べさせられるのです」
「どこまで行くねん、君の話は」
「仕方ない、ではとっておきの話をしましょう。私の友達の友達がおじいさんから聞いた話です」
「またかいな」
「昔々、紅しょうがはまだ紅色ではありませんでした。白っぽいしょうがの色で、白しょうがと呼ばれていました」
「はあ、なるほど」
「友達の友達のおじいさんは、白しょうが工場に勤めていました。最新式の設備で、毎日白しょうがを作っていました。そしてある日、定期点検ということで数人の作業員が機械を止めてあちこちチェックしていました」
「ほうほう、なるほど」
「ところが、点検が終わってみると小太りの作業員が一人、行方不明になっていたのです。工場内を探したのですが、ついに見つかりませんでした」
「ははあ、なるほど」
「仕方なく、その日はみんな家に帰って眠りました。そして次の日、いつものように白しょうがを作り始めたのですが……ジャジャーン!」
「効果音はええねん。で、どうなったんや」
「出てきたのは白しょうがではなくて、真っ赤な色が付いた紅しょうがだったのです。まるで血の色のようにも見える真紅の紅しょうが。作業員たちは、不審に思いながらもちょっと食べてみました。すると、これが実においしい!」
「はあ、なるほど」
「うまいうまいと言いながら、みんなでかなりの量を食べました。するとそのうち、一人が言い出したのです。ああ、こんなうまいもん、あいつにも食べさせてやりたいなあ。あいつって誰や。ほら小太りのあいつやないか、昨日行方不明になった……。みんなはそこで思わず黙り込み、顔を見合わせました。そして、急いで機械を止めたのです」
「ううっ、びくびく」
「作業員たちは、おそるおそる機械の中をのぞき込んでみました。するとそこには、身の毛もよだつような光景が!」
「ああっ、聞きたくない聞きたくない」
「なんと、昨日行方不明になった小太りの男が、山ほどのトマトを丸かじりしながら一升瓶を抱えて酔っ払っていたのです! あの赤い色は男の食べ残しのトマトの色でした。ううっ、なんと恐ろしい話でしょう」
「……って、どこが恐ろしいんや! だいたい、なんでトマトやねん」
「ダイエットにはトマトが最適ですからねえ。そしてそれ以来、その工場は紅しょうがを生産して大もうけしましたとさ。めでたしめでたし」
「ハッピーエンドで終わっとるやないか。ええかげんにせえや」
「はい、そろそろおあとがよろしいようで」
「どうも、セメダインズでした」
「みなさま、また来年お会いしましょう」
「それを言うなって!」




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