第340回   駆け込み乗車はおやめください  2001.8.26





「炊き込みご飯はおやめください」というのは、中川家のネタだったか。
 まあそれはともかく、人はなぜ駆け込み乗車をするのだろうか。そこに電車があるからだ、ではすまされない問題である。ほんの数分も待てば次の電車が来るというのに、なぜそんなに急いで駆け込む必要があるのだろう。
 え? オレの住んでいるところでは一本乗り遅れたら次の電車が来るのは三時間後だ? そ、それは失礼しました。知らぬこととは知りながら申し訳ない。どうぞ、思う存分駆け込み乗車でも飛び込み乗車でも夏コミ乗車でもしてください。
 というわけで、次の電車まで一時間以上ある場合に限り、駆け込み乗車を認めることにしよう。そうでない人は、駆け込み乗車をしてはいけない。だいたい、駆け込み乗車をするとドアの再開閉をしなければならず、その分電車が遅れる。その電車に限らず、後続の電車にも影響を与えるのだ。自分一人のエゴのために、数千人の人間に迷惑をかけているのだ。困ったものである。

 それでは、そういう迷惑な駆け込み乗車を根絶するにはどうすればいいか。まず考えられるのは、アナウンスで注意を喚起するという方法だ。しかし、「駆け込み乗車は危険ですからおやめください」という放送は、たいていの駅で流れているが、どうもあまり効果はありそうにない。たまに、電車のドアが再開閉されて「ただいま、4号車で駆け込み乗車をされたお客様、危険なだけでなく電車の遅れにつながり他のお客様の迷惑になりますのでおやめください」などという放送が流れることもあるが、こんなことを言われると周囲の人々の視線が駆け込んだ者に集中して非常に恥ずかしい。これに懲りて駆け込み乗車をやめてくれればいいのだが、羞恥心のない人間には効果はなさそうである。
 ならば、強硬手段を取るか。ドアに刃物を付けておくのである。そしてドアの閉まる速度は今の五倍くらいにして、さらに再開閉は絶対にしない。駆け込み乗車をした者は、容赦なく切り刻まれるのだ。なかなかいい方法である。……と思ったが、腕やら首やらが床にごろごろと転がっているような電車にはあまり乗りたくないなあ。この方法は却下しよう。
 では、ドアを左右開きではなくてシャッターのように上から降りてくるものにすればどうだろう。駆け込み乗車をした者がこのドアに挟まれてもがく様子は、なかなか面白そうである。って、いや、こんなドアでは普通のドアよりも開閉に時間がかかってしまう。駆け込み乗車した者を笑い者にできるのはいいのだが、電車はやっぱり遅れてしまうだろう。これでは本末転倒だ。
 では、ドアを観音開きにしたらどうか。駆け込み乗車をしようとするものがいたら、ドアを思いっきり再開閉してやるのである。ドアにはね飛ばされてホームに転がる様子はなかなか面白そうである。って、いや、面白いだけじゃあダメなんだってば。
 では、回転ドアにしたらどうか。って、え?もういいですかそうですか。

 どうも、駆け込み乗車を防ぐ有効な方法はなさそうである。ならば、発想を転換しよう。ドアを開閉するから時間がかかって電車が遅れるのだ。ドアは常に開けっぱなしにしておく。どうぞご自由に駆け込み乗車をしてください。ただし、電車は時間になれば容赦なく液を発射します。違った。駅を発車します。乗るのも自由、降りるのも自由、駆け込むのも自由、飛び込むのも自由、そして落ちるのも自由。落ちた者は見捨てて電車は走っていく。これなら、定時運行を確保できるだろう。今すぐにでも実施してもらいたい。
 あ、いや、ダメだ。ドアを開けっ放しにすると冷房が効かずに暑い。秋になってから実施してもらいたい。




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