第150回   使徒来襲 1997.8.25


 炎につつまれた大阪の街を、あたしは走っていました。
 そうです、日本各地を荒し回った「使徒」が、今週になって大阪にやってきたのです。予想では、来襲は来週のはずだったのに。
 警察も自衛隊も為すすべはなく、すでに梅田は壊滅的な打撃を受けていました。あたしは、使徒から逃げて北へ走りました。目指すは、淀川を越えた十三。十三一直線です。

 実は昨日、東京に住むボーイフレンドの一人から電話があったんです。大阪は危ないから、東京に来いって。しかしあたしは大阪で生まれた女。迷いました。困っちゃうな〜帝都に誘われて〜、というところでしょうか。
 そして迷った末に大阪に残ることにしたんですが……ちょっと後悔しています。やっぱり、東京へ行った方がよかったかな。でも、今さらそんなことを言っても仕方ありません。

 あたしはひたすら、北へ走りました。十三の向こうにある福泉寺、そこに「最後の希望」があるんです。
 その希望は「飯綱」。イタチに似た小さな霊獣ですが護法により使役することができます。飯綱ならば、使徒のATフィールドを破って攻撃することができるでしょう。使徒に対抗するには、この方法しかありません。
 普通の女の子に過ぎないあたしに、飯綱が使いこなせるのか……その点は心配いりません。なぜなら、あたしの顔はまるいからです。昔から言うでしょう、まんまる顔の女の子に飯綱は慣れるって〜。ねっ、バスボン。

 阪急中津駅のあたりまで来たとき。あたしの足は止まりました。目の前に、使徒が立っていたのです。先回りされたのでしょうか。一体、あたしはどうすればいいのでしょう?
 でも、使徒は幸い、こちらには気付いていないようです。このまま十三大橋まで行けるかもしれません。あたしはおそるおそる、歩き出しました。
 使徒はこちらに背を向けています。泣いているのか笑っているのかもわかりません。ただ、後ろ姿がとても気になります。あたしは、祈るような気持ちでした。振り向かないで〜大阪の使徒〜。


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