第170回   ドーピングを考える  1998.2.17




 世間は長野オリンピックにおける日本選手の金メダルラッシュで盛り上がっているようだ。
 しかし、国際的なスポーツ大会と言えば避けて通れないのがドーピングの問題である。今回のオリンピックでも、スノーボードで金メダルを獲得したカナダの選手が、マリファナをやっていたらしい。
 そこで今日は、ドーピングについて考察してみよう。

 さて、そのマリファナを吸っていたカナダの選手であるが、裁定が覆されていったん剥奪された金メダルが戻ってきた。当然のことであり、実にめでたい。
 そもそもなぜドーピングがいけないのか。それは、「クスリによって実力以上の運動能力を引き出している」からだ。不正である。不公平である。クスリを使っていない選手にとっては、大きなハンデとなるだろう。このようなクスリを使った選手には、ペナルティーがあって当然である。
 では、マリファナはどうか。マリファナは禁止薬物リストには載っていず、運動能力を高める効果があるとは認められていない。だから、マリファナを使うのは不正ではないのだ。
 倫理的にどうのこうの、という意見もあるだろう。しかし、金メダルは、その選手の運動能力に対して与えられるものだ。運動能力以外のことで評価してはいけない。不正をおこなっておらず、運動能力が高ければ、背が低かろうが顔が悪かろうが足が臭かろうが駐車違反の常習者だろうが連続婦女暴行犯だろうが、金メダルを取れるのだ。金メダルを取るほどの選手だから人格も優れているだろう、というのは幻想に過ぎない。
 待てよ? よく考えてみれば、マリファナなどを吸ったら運動能力はかえって低下するのではないか?
 するとこの選手は、マリファナを吸うというハンデをかかえながら金メダルを取ったのだ。これはむしろ、誉められるべき事だろう。

 とにかく、ドーピング検査自体も完全なものではないし、判定基準にもあいまいな点がある。こうなったらいっそのこと、ドーピングを解禁してしまったらどうだろう。全選手がドーピングをするようになれば不公平もなくなる。医薬品の先進国である日本にとって、メダルを増やすチャンスだ。
 ドーピングが解禁されたオリンピックは、こうなるだろう……。


 さあ、女子モーグル決勝、いよいよ里屋選手の登場です。里屋選手はこの日のために、37種類のクスリを使って運動能力を高めてきました。髪は白髪になり歯も抜けていますが、これは副作用によるものです。しかし、これまでの努力を無にしないためにもがんばってほしいです。どうでしょう、解説の……。
「いいぞー! すげー! すげー! やれー! タエー!」
 ……えー、放送席はすでにエキサイトしていますが、ここで里屋スタート。これは素晴らしい滑りです。おおっと、月面宙返りが出た! これは大技だ!
「すげー! すげー! もっとやれー! がんばれー!」
 トップスピードで走り降りてフィニッシュしました。点数もすごい。最高得点です!
「いいぞー! すげー! すげー! タエー! すげー! すげー!」
 あのー、解説者は別にクスリを使わなくてもいいんですけど……。


 さあ、スピードスケート決勝、いよいよ志水選手の登場です。しかし志水選手、ずいぶん苦しそうですが。
「そろそろクスリが切れる時間じゃないでしょうか。禁断症状が出はじめてますねえ」
 スタートしました。志水選手、相変わらず苦しそうです。しかし速い! みるみる差を広げていきます。このままいけば金メダルだが……おおっと、志水選手、ついに耐えきれなくなったか。給水所に寄って、注射器を手に取りました。左腕に注射しています。顔色がよくなってきたぞ。再び元気に走り出した。しかし遅れています! ダメだ、志水敗れる! 志水敗れる!
「うーむ、やはり、500メートルの短距離で給水所に立ち寄ったのがまずかったですねえ」


 さあ、ジャンプ団体決勝、いよいよ腹田選手の登場です。腹田選手、1回目のジャンプは大失敗で、30メートルしか飛べませんでした。他の3選手にボコボコに殴られていたようですが、大丈夫でしょうか?
「とにかくがんばってほしいですねえ」
 おっと、ここでレポーターから重大な情報が入ってきました。なんと、腹田選手、さきほどあのクスリを使用したもようです!
「それはもしや、禁断のクスリと呼ばれる……」
 そう、究極のドーピング剤と言われた、あのクスリです。運動能力を極限まで高めると同時に、激烈な副作用のために1時間後には死に至るという悪魔のクスリです。腹田選手、命を賭けています!
「まさに、日の丸特攻隊ですねえ」
 腹田選手、助走に入りました。がんばれ腹田、一億二千万の国民が君の勇姿を見ているぞ! 飛んだ! 素晴らしいジャンプです! まさにカミカゼだ! 飛距離もぐんぐん伸びます! これはすごい! 180メートルを越えました!
「いまどきの若い者に、この腹田の根性を見習ってほしいですねえ」
 腹田着地! これで金メダル確実です! 腹田選手、泣いています! もはや余命はいくばくも残っていません! 腹田よくやった! 君の魂は靖国神社に奉られるぞ! 君は皇民の鑑だ! さらば英霊腹田! さらば軍神腹田! 大日本帝國万歳!
「このクスリがあれば、全種目金メダル取れるんじゃないですか? 他の種目の選手にも、強制的に使用させましょう」


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