第236回 五三八を信じるな 1999.1.25
人間は嘘をつく。
昨夜は何をしていたの、と聞かれたら、北新地で飲んでいたとか鶴橋で麻雀をしていたとか天王寺で踊っていたとか、なるべくもっともらしい言い訳を考えようとするだろう。ここで、沖縄でハブと戦っていたとか竹島に日の丸を立てに行っていたとか大雪山でヒグマを殴り殺していたとか、そんな言い訳をする者はまずいない。
嘘をつくときに、もっともらしい数字が必要になることもある。合コンで会ったいやな相手に電話番号を聞かれ、仕方なくでたらめの番号を教えるとき、などだ。このようなとき、電話番号を教えられた側は、それが嘘か本当かで悩むことになる。いったい、この番号は正しいのか? 家に帰って電話してみたら暴力団事務所に繋がった、なんてことになったら目も当てられない。本人に聞いたところで、正しい番号だと答えるだけだろう。確認するには、「あなたはこの電話番号が正しいかと聞かれたら『はい』と答えますか?」などといったややこしい質問をしなければならない。これはかなり面倒くさい。
実を言うと、そんなややこしいことをしなくても、数字が嘘か本当かを簡単に判別する方法があるのだ。
人間がでたらめの数字を思い浮かべようとしても、そこには必ず規則性があらわれる。具体的には、5と3と8、この三つの数字の割合が増加するのだ。これを専門用語で「嘘の五三八」と言う。まあ、心理学的にはどのように説明が付けられるのかよくわからないが、とにかく、5と3と8の割合が異常に多い数列は疑ってかかる方がいいだろう。
この原理を知っていれば、贋札や偽造小切手なども番号からある程度判別できることになる。それどころか、森羅万象、この世の中のありとあらゆることの嘘を見分けることができるのだ。そう、こんな感じである。
「年ですか? 35才です」
嘘つけ。どう考えても40は越えてるぞ。
「あたしー、ウエスト58センチなの」
嘘つけ。どう見ても65センチはあるぞ。
「身長? ええと、185センチです」
嘘つけ。180以下にしか見えないぞ。
「仏教伝来538年」
嘘だ。もっと早いはずだ。
「夏も近づく八十八夜〜」
それも嘘だ。本当は七十七くらいのはずだ。
「東海道五十三次」
水増しするな。本当は四十九くらいだろう。
「国道58号線」
いいかげんなことを言うな。49号線のはずだ。
「三十三間堂」
でたらめを言うな。私の見たところ、三十一といったところか。
「コント55号」
それも間違いだ。54号が正しい。
「直木三十五」
嘘をつくな。三十三か三十四だったはずだ。
「5年3組魔法組」
これも嘘だ。4年4組だ。
「1999年7月、恐怖の大王が空から降ってくる」
これは……ううむ、どうやら本当らしいな。
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