第237回   動物実験は許せない  1999.1.31





「おい、お前ら、ちょっと協力してくれよ」
「よし、協力しよう」
「こらこら、内容も聞かずに安請け合いするなよ。で、何に協力してくれって?」
「実は、署名をしてほしいんだ」
「よし、署名しよう」
「だからちゃんと内容を聞けって。で、何の署名だ?」
「実は、動物実験禁止を訴える署名なんだ」
「よし、署名しよう」
「……お前、ちゃんと理解して言ってるんだろうな?」
「当たり前だろ。実を言うとおれも、インドとパキスタンの実験にはむかついてたんだ。むかむか」
「……ああっ、やっぱりわかってない」
「しかたない、ちょっと説明するか。いいか、動物実験ってのは、医学や生物学の研究や薬品の開発のために、動物を実験体として使うことだ」
「なにっ、そんな残酷なことをしてたのか。許せん!」
「……どうもまだホントに理解しているかどうか不安だなあ。具体的にどういうものなのか、わかってるか?」
「いや、よくわからんけど、とにかく許せん」
「これだもんな。いいか、たとえばだな、猿の頭蓋骨を切り取って脳をむき出しにして、それに電極を差し込んでパルスを測定するとか」
「なんて残酷なことをするんだ!」
「マウスの皮膚にガン細胞を植え付けて増殖の具合を見るとか」
「なんて残酷なことをするんだ!」
「熱した鉄板の上で猫を踊らせるとか」
「なんて残酷なことをするんだ!」
「キリンに熱いお茶を飲ませて、どれだけ長い間熱がるか観察するとか」
「なんて残酷なことをするんだ!」
「甘海老にわさび醤油をつけて、胃酸の中でどれだけ生きていられるか観察するとか」
「なんて残酷なことをするんだ!」
「甘いものを無理矢理腹いっぱい食べさせて、肥満の度合いを観察するとか」
「なんて残酷……ううむ、それはちょっとうらやましいぞ。じゅるじゅる」
「こらこら、よだれをたらすな」
「コアラにマジックで眉毛を描いて、見た者が幸せになるかどうか観察するとか」
「なんて……ううむ、それはあまり残酷じゃないかも」
「とにかく、これでわかっただろう? 署名に協力してくれ」
「そうだよなあ、かわいい犬や猫を実験に使うのはかわいそうだからなあ」
「ちょっと待て。それじゃあ、グリーンイグアナの立場はどうなる?」
「イグアナ? ぶるぶる。おれ、嫌いなの。イグアナなら実験に使ってもいいや」
「なんだと! おれのかわいいイグ子ちゃんを実験に使えというのか? それを言うなら、お前のところの猫だってぶくぶく太ってみにくいぞ。あんな猫なんか、とっとと実験に使ってしまえ」
「言ったな、てめえ、オモテへ出ろ!」
「まあまあまあまあ。ここで喧嘩してもどうしようもないだろう。冷静に考えようぜ」
「……う、ううむ、そうだな」
「……まあ、かわいいとか残酷だとかは別にしてもだな、やっぱり動物実験は危険だろう」
「そうそう、危険なんだ」
「猿の脳の改造なんかしてるわけだろ? まかり間違って、その猿が異常に高度な知能を持ってしまったらどうする? ああっ、地球は猿に支配されてしまう!」
「おいおい」
「猿だけならまだいいぞ。犬とか猫とか牛とか河童とかフキダラソウモンとかミトコンドリアとか天然痘ウイルスとかが高度な知能を持ってしまったら……ううっ、悪夢のような世界が。やっぱり動物実験には反対しよう」
「そうだな。動物実験というものは、人類のおごりに過ぎないからな」
「おっ、いいこと言うね」
「人間の病気を治すために動物を犠牲にするなんて傲慢だ。動物実験は全面的に禁止するべきだろう」
「そう、そのとおりだ」
「しかし、かといって、新薬の開発などをやめるわけにはいかない。だから、動物実験は禁止して人体実験に切り替えよう。人間のことは人間で解決する、それが自己責任というものだ」
「うむ、そのとおりだ」
「しかし、そのためには実験体の不足が予想される。そこで登場するのがクローン人間だ。クローン人間さえいれば、好きなだけ人体実験ができるぞ」
「おおっ、素晴らしい発想。まさにコペルニクス的転回だ」
「よし、この署名はクローン人間推進の署名に変更しよう」
「そうだそうだ、それがいい。よし、署名するぞ」
「おれも署名するぞ」




第236回へ / 第237回 / 第238回へ

 目次へ戻る