第294回 飛ばせ!竹トンボ 2000.1.5
正月とはほとんど関係のない話で恐縮なのだが、子供のころは、よく竹トンボを作って遊んだものだった。
当時はおもちゃ屋などでも竹トンボを売っていた。だから、わざわざ作らなくてもよさそうなものだが、自分で作った方がより性能のいいものができるのだ。もちろん、この場合の性能とは「よく飛ぶ」ということである。
既製品の竹トンボは、羽根と軸が一体化している。これではダメだ。軸の分だけ重くなる。軸と羽根が分離し、羽根だけが飛んでいくものでなければならない。さらに、軸の回し方も問題である。両手のひらにはさんで回していたのでは大してスピードも出ない。そこで、軸にタコ糸を巻き付けてそれを引くことにより回転力をつけるのだ。この場合、回転させるための台座が必要になってくるが、これも竹で作る。まず竹を輪切りにしてその側面に穴を四つ開ける。円に内接する正方形の頂点の位置にだ。この上下方向に竹トンボの軸を通し、左右の穴からは軸に数回巻き付けたタコ糸を出す。タコ糸の長さは1メートルほど、両端には竹の切れ端などを結びつけておけばいいだろう。この台座の下部に、さらに竹で作った持ち手を付ければ完成である。
羽根の方の加工も重要だ。なるべく厚い竹を使い、それを削ってひねりに角度を付ける。さらに慎重に、それをカミソリのように薄く削っていくのだ。重心が中心にくるように微調整すれば完成である。
こうして作った竹トンボの威力はすごい。通常の竹トンボの三倍のスピードは出るので、赤く塗っておいてもいいだろう。ちょっと練習すれば思い通りの方向に発射できるようになる。十メートル離れたところに置いたキュウリを切断することなど朝飯前だ。その気になれば夏みかんだってアルミ缶だって切断できる。
しかし、今の子供たちは竹トンボなどで遊ばないようだ。近所の公園を散歩しても、竹トンボでキュウリを切断している子供の姿など見かけることはない。案外、プレイステーション用ソフト『飛ばせ!竹トンボ』(専用コントローラー付き)で遊んでいるのかもしれないが。
竹トンボといえば連想するのはタケコプターである。ドラえもんのひみつ道具の中でもっとも有名なものだ。昔はヘリトンボと呼んでいたような記憶があるが、いつ頃からタケコプターに変わったのであろうか。いずれにせよ竹トンボとヘリコプターの合成語なのだが、竹トンボといってもわからない子供が増えたために、よりヘリコプターに語感が近いタケコプターに変更されたのだろう。
まあそれはともかく、タケコプターに対するよくあるツッコミに「あんなものを頭に付けたら、のび太の頭の皮だけがはがれて飛んでいってしまうだろう」というものがある。確かにタケコプターは頭頂部に装着して使うものだから、そこだけに力がかかるとすればそう考えられるだろう。だが、ちょっと待ってもらいたい。そもそも、直径二十センチ程度のプロペラを回しただけで人間を持ち上げられるほどの揚力が発生するのだろうか。とてもそうは思えない。おまけに、いくらプロペラを回したとしても発生する風の大部分はのび太の頭に当たるだけである。これでは揚力も発生しようがない。
すると、考えられる結論は一つ。タケコプターは反重力などの技術を利用してのび太を飛ばせているのだ。あのプロペラは単なる飾りであるか、正常に動作していることを示すパイロットランプのような役目を果たしているのだろう。仮にも二十二世紀の科学技術である。われわれの浅薄な知識で「のび太の頭の皮が云々」などとつまらないツッコミをしてはいけない。
プロペラといえば、ちょっとレトロな洋風居酒屋などに行くと、天井で大きな三枚羽根のプロペラが回っていることがある。あれはいったい何なのだろうか。扇風機にしては速度が遅すぎて役に立たないようだし、あれでハエを追っているようにも見えない。まさか、自動催眠装置になっていて見ているともっと飲みたくなってくるわけでもないだろうし、風力発電の風車でもないだろう。トンネル掘削機にしては造りが華奢すぎる。するとやはり、あれも単なる飾りか。シャレで回っているだけか。そう思って、店員に聞いてみる。
「ああ、あれですか。止めないでくださいね。あれを止めると、天井が落ちてくるんです」
という答が返ってきたが、どうも今ひとつ信用できない。あのプロペラで発生する揚力などたかが知れているだろうし、そんなぎりぎりの設計で天井を作るものだろうか。普通はもっと安全係数を取るだろう。
とは思いつつも、そう聞いたらやってみたくなるのが人情である。幸か不幸か、私の手には先ほど作った竹トンボがある。仰角も悪くない。十分狙えるポジションである。
天井のプロペラの付け根に照準を合わせ、私は竹トンボを飛ばす。
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