第350回 そんなハムシに騙されて 2002.9.1
アンドロイド、ヒューマノイド、レプリカント、いろいろと呼び名はあるが、日本語で言えば「人間もどき」だろうか。人間に似ているが人間でないもののことである。
そういえば昔、『マグマ大使』に人間もどきという化け物が登場していた。姿形は人間そっくりだが、倒されるとどろどろに溶けて消滅してしまうのである。実に恐ろしい。その辺を歩いている人間(に見えるもの)の中にも、このような人間もどきが紛れ込んで何食わぬ顔で生活しているのかもしれない。あなたの隣にいる人も、いやひょっとしてあなた自身も、人間もどきかもしれないのだ。びくびく。
もっとも、人間もどきかと思ったら、日系ドイツ人のニーゲム大戸木さんだったりすることもあるから注意が必要だが。
まあ、人間もどきというのは(おそらくは)架空の存在だからいいとしても、生物の中には○○モドキ、ニセ○○、あるいは○○ダマシという名前のものがけっこう沢山存在するのだ。一例を挙げれば、テントウムシダマシである。テントウムシに似た昆虫だから、テントウムシダマシという名前が付けられたらしい。
というわけで、ちょっと調べてみたのだが、よく見かけるナナホシテントウというのはテントウムシ類に属する。ところが、ニジュウヤホシテントウというのはテントウムシダマシ類なのだ。これはいったいどういうことか。どうしてニジュウヤホシテントウはテントウムシではないのだ。星の数から言えば、ナナホシテントウの四倍の速度で接近してきてもいいはずなのに。にせウルトラマンとかにせウルトラセブンとかは、本物とは体の模様が微妙に違っていたりするが、それと同じようなものか。
とにかく、名前からすればテントウムシの方が先に発見されて先に命名されたということは確かだろう。似たような昆虫でありながら、あとから発見されたというだけで○○ダマシなどという名前を付けられるのも運命のいたずらだろうか。もしテントウムシダマシの方が先に発見されていたとすれば、テントウムシダマシがテントウムシと呼ばれ、テントウムシの方がテントウムシダマシになっていたかもしれないのだ。そうなれば、『てんとう虫のサンバ』も『てんとう虫だましのサンバ』になり、結婚式で歌うにはあまりふさわしくない曲になっていたことだろう。
このような、○○モドキ・ニセ○○・○○ダマシという名前は、昆虫に多い。哺乳類や鳥類などにはあまり存在しないようだ。せいぜい、ガンに似た動物のガンモドキ、猫に似た動物のネコダマシ、子供に似た動物のコドモダマシ、大和に似た動物のヤマトダマシイくらいである。これに対して昆虫は、そういった名前が非常に多い。一説によれば、現存する昆虫のうち、実に七十パーセントが○○ダマシなどの二次的な名前が付けられているともいう。
特にすごいのはハムシ類である。ハムシ・ニセハムシ・ハムシダマシ・ニセハムシダマシと四種が存在するからややこしい。ニセハムシダマシというのは、ニセハムシに似ているからニセハムシダマシと命名されたのか。あるいは、ハムシダマシに似ているからニセハムシダマシと命名されたのか。いったいハムシとニセハムシダマシはどれくらい似ているのか。ええ、そのあたりはどうなっているのだ日高敏隆よ。
昆虫にこのような名前が多い理由は、やはり、種数がずば抜けて多いからだろう。昆虫の種数は百七十万種とも二百万種とも言われ、生物全体の七十パーセントを占めるという。しかもこれは発見されて命名されたものだけで、未発見のものを含めると三千万種とも一億種とも言われているのだ。その辺の道を歩いていて何か生物に出会ったら、それはおそらく昆虫である。
これだけ数が多ければ、命名する方も大変だろう。最初のころはテントウムシとかカブトムシとかカミキリムシとか、それなりにオリジナリティのある名前を付けていたのだが、あとになればなるほどネタも尽きてくる。百万種以上も名前を付けていればイヤになってきて、とにかく適当に名前を付けておいて早く寝たい、という気になるのかもしれない。
まあ早く寝たいという気持ちはわかるが、それにしてもニセマグソコガネダマシ・ニセケオビアリモドキ・ ニセツヤヒメコメツキダマシなどという名前は手抜きが過ぎるのではないか。 ニセクロホシテントウゴミムシダマシなどは、テントウムシに似ているのかゴミムシに似ているのか、いったいどちらだ。こんないいかげんなことでいいのか日高敏隆よ。
そういった昆虫の中でも極めつけにかわいそうなのが、メクラチビゴミムシダマシであろう。そもそもゴミムシという名前自体がけっこうひどい命名であるが、その上にメクラとチビが付いているのだ。しかし、それだけならまだいい。メクラチビゴミムシであれば、少なくともゴミムシではあるのだから。メクラチビゴミムシダマシは、ゴミムシですらない。実にかわいそうである。こんなことでいいのか。メクラチビゴミムシダマシなどという名前で呼ばれる者の身になって考えたことがあるのか。
え? ない? ううむ、困ったものである。では、そういった昆虫たちの苦しみを理解してもらうために、これからは人間のことを「ヒト」ではなくて、「ハダカサルモドキ」と呼ぶことにしよう。
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